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2023年11月2日、マーベラスからニンテンドースイッチ向け新作タイトル『ファッションドリーマー』が発売されました。
『ファッションドリーマー』は、イヴと呼ばれる仮想空間でファッションを楽しんだり、他プレイヤーにコーデを提案して交流したりしながらトップインフルエンサーを目指すファッション&コミュニケーションゲーム。Nintendo DSと3DSで任天堂が発売したファッションゲーム『ガールズモード』シリーズでも知られるシンソフィアが開発を手がけています。
本稿では発売直前に実施した、『ファッションドリーマー』のキーマンであるマーベラスの神山敬介プロデューサーと、シンソフィアの滝田哲朗ディレクターへのインタビューをお届けします。
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ゲームのテーマはファッション“を介した交流”
――まずは簡単な自己紹介をお願いします。
神山敬介氏(以下、神山)『ファッションドリーマー』のプロデューサーを務めています、マーベラスの神山です。開発はシンソフィアさんが担当されていますので、私はビジネスまで含めたプロジェクト全体の統括と意思決定を行っています。
滝田哲朗氏(以下、滝田)シンソフィアのディレクター、滝田です。開発現場をまとめるだけでなく、企画や仕様も手がけました。なんでも色々やっていたと思います。
――本作の企画はどちらから立てられたのでしょうか?
神山2020年ごろに、シンソフィアさんから弊社にご提案いただきました。その時に私も同席していて個人的に興味のあるジャンル・テイストで感じ入るものがあり、「弊社から販売できるか、ぜひ検討させてください」とお答えしました。
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――シンソフィアからはどのような経緯で企画が生まれたのでしょうか。
滝田順を追ってお話ししますね。弊社の代表である吉田(吉田秀司氏。『ガールズモード』シリーズの生みの親でもある)が「新しい形のゲームを世に出していきたい」と僕たちスタッフに向けて宣言したのが始まりでした。
「これからは内側を向いた“閉じた系”ではなく、“開いた系”を作るんだ」と言うんです。
――具体的におうかがいできますか?
滝田僕の解釈では、「“ゲームの世界に籠り、人とつながりを持たなくなるもの”はダメ」ということでした。「“人と人の間にゲームがあって、関係性を広げていくもの”をつくる」と。
――今はSNSがすっかり普及していますし、それは分かる気がします。語弊がある表現かもしれませんが、コミュニケーションツールとしても機能するゲームがいいということでしょうか。
滝田そうして吉田から出てきたのが『ファッションドリーマー』の企画でした。つまり、ただ「ファッションゲームを作る」ということではなく、「コミュニケーションを楽しむゲーム」に、素材としてシンソフィアが得意とする「ファッション」が乗っているということです。
――だからジャンル名が「ファッション&コミュニケーションゲーム」となっているのですね。
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あらゆる人が、ファッションでコミュニケーションをしている!
――神山さんは、企画のプレゼンを受けてどう感じられましたか?
神山ファッションゲームでありながら、それだけに留まらないゲームになる可能性を秘めた新しい作品であり、手がけたいタイプのゲームだと感じました。弊社の代表も、同じことを感じたそうです。
――具体的には、どのようなところに惹かれましたか?
神山ニンテンドースイッチは大きく普及したがゆえに「大ヒット作は遊んだけれど、毎日熱心に起動しているほどではない」という方も一定数いらっしゃいます。私はそういった方たちに遊んでもらえるような作品を手がけたいと常々考えており、本作はそれを満たす新しいゲームになりうると感じました。
滝田さんに聞きたいのですが、「ファッションゲームを作りたい」と思っていたら、本作のような企画は出てきませんでしたよね?
滝田そうですね。本作の企画はファッションゲームを楽しむということ以前に、人が生きていくのに欠かせない衣・食・住の“衣”たるファッションの本質はなんなのかということについてたくさん考えてきました。
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――ぜひ、その本質をお聞かせください。
滝田たとえば、僕と神山さんはよく髪の色を変えますが、染める際はお互いに「色が被ったらなんかイヤだな…」という“読み合い”が発生すると思います。
神山それは確かにあります(笑)。
滝田また、僕は普段は黒いモード系の服を好みますが、今日のインタビューでそういう格好をした僕を見た読者のみなさんに「なんだか強烈な雰囲気の人が作っているんだな」という印象を与えてしまわないように、少しカジュアルな服を選びました。
こうした思考は、皆さんも日常において頻繁に行っていると思います。記者さんも「今日はインタビューがあるぞ」と考えながら服を選んだのではないでしょうか?
注:筆者はこの日「Tシャツではカジュアルすぎるかな」と考えてスタンドカラーのシャツを着ていきましたので、正にその通りでした。
誰でも、ファッションが好きかどうか・詳しいかどうかに関わらず、その日の服装を決める際は誰に会うかを心のどこかで意識しているはずです。そして、それはもう「ファッションによるコミュニケーション」であるといえます。
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神山「自分はオシャレではないし、オシャレに興味もない」と思っている方もいるかもしれませんが、何らかの形でファッションによるコミュニケーションはしているんですよね。
――他者のことを考えて自分の選択が変わるのならば、それはもうコミュニケーションであると。
滝田そうです。ファッションはノンバーバル・コミュニケーションなのです。
※ノンバーバル:非言語/言葉を使わない
「仕事なのだから悪目立ちしないようにしよう」とだけ考えて服装を決めている社会人の方もいるかもしれません。しかし、他の人の目を考慮しているので「自分の意思で悪目立ちしないファッションを選んでいる」んです。ファッションは「客観性のある自己表現」と言えます。
――目立たないようにするのもファッション……その発想はありませんでした。
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美術館や博物館に通い、ファッションの本質を知る!
――滝田氏は本作に携わる前からファッションがお好きとのことですが、そうした考えをずっと持っていたのでしょうか?
滝田本作に携わるまでは、ファッションは好きなだけで詳しいわけではありませんでした。今でも、私より詳しい方は大勢いるでしょう。しかし、ゲームの題材として扱うなら精通しないままでは私自身が納得できませんので、本作に携わって最初にしたのはファッションとはなんぞや、被服とはなんぞやということをひたすら追い求めることでした。
膨大な資料を購入して読み、美術館や博物館にもよく足を運びました。毎週、原宿や渋谷に通いたくさんの服を購入し、ファッションのSNSに投稿したりもしました。
神山シンソフィアさんの所有する資料には、いわゆるファッション誌だけでなく、歴史的・風俗的な史料も数多くあるんです。
滝田民俗学や文化という視点から被服を研究している方の文献にも触れたりして、とことん向き合いました。しかし、得た知識をそのまま出力した小難しいゲームを遊んでもらいたいわけではありません。インプットを済ませたあとは、「魅力となる部分をいかに切り取ってゲームに落とし込むか」との格闘でした。
神山シンソフィアさんは、本作にかぎらず作るゲームの題材をすごく深いところまで掘り下げますが、いざリリースされたゲームを遊ぶとそういったファッションに対する難しさがまったく感じられません。卓越したバランス感覚をお持ちなのだと思います。
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