NPCのミューズは“移動式マネキン”!?
――無理に毎日遊ばずともトップインフルエンサーを目指す体験ができるのはいいですね。話題が冒頭に戻るようではありますが、本作でそこまでしてオンライン――他者との交流にこだわったのはなぜなのでしょう?
滝田理由は二つあります。一つは「現実のファッションには終わりがない」ことです。ファッションは流行が移り変わりますので、究極的には最先端を極めた、すべてを体験したという概念がありません。どんなに洋服を買えるお金持ちでも、飽きたり満足したりしないかぎりはゴールがないわけです。ゲームに落とし込むのなら、この“沼”具合を再現しなければならないと考えました。
二つ目は「いいと思うコーデができたら、人に見せたくなるよね」ということです。小さな子どもは、新しい洋服を買ってもらったら友達に「見て、見て!」と見せびらかしたりしますよね。また、小さな子どもではなくとも、親しい友人には見せる……ということもあるでしょう。
しかし「自分のファッションを気軽に人に見てもらえる」という命題をクリアしているファッションゲームは、決して多くはないのです。
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――プレイ中にスクリーンショットを撮影してコンソール本体の機能からSNSに投稿……くらいはできますが、同じゲームのプレイヤーにインゲームで直接見せられるようなゲームは、確かになかなか思い浮かびません。
滝田その点、オンラインモードではキャラクターミューズ(NPCのミューズ)は常に誰かが考えたルカットが反映されており、そのコーデを考えた人をフォローすることもできます。
先ほど、「プレイヤーミューズは歩くセレクトショップでもある」とお話しましたが、キャラクターミューズはいわば「移動式マネキン」。彼・彼女たちへのルカットは「世界中の不特定多数へのコーデ提案」であるも同然なんです。全リージョンを同一のデータベースで動かしていますから。
――NPCか他プレイヤーのミューズであるかを問わず、ルカットは相手の要望(ほしいアイテム/好きなアイテム)を満たしてあげるのが第一と考えていましたが、そう考えると自分の好み100%でルカットするのもアリ……ということでしょうか?
滝田もちろんです。みなさん、現実においてファッションの話でなくとも「合わないかなと思いつつ提案したものが案外気に入ってもらえた」ことや、「自分がそうされて、意外と気に入った」ことがあるのではないでしょうか?誰しも、生きていれば多かれ少なかれそういう“食わず嫌い”をしているはずです。
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――分かる気がします。自分にとっては、ファッションゲームにハマってしまったこともその一つですので!
結論:細かいことはいいからとにかく楽しんで!
――本日はとても興味深いお話を長時間ありがとうございました。そろそろまとめに入っていければと思います。
滝田国内のゲームメディアからインタビューを受けるのは今日が初めてなので嬉しくて、思わずたくさん話してしまいました。しかし、ここでお話したことをプレイヤーのみなさんに必ずしも知っておいていただきたいわけではありません。
選択肢や種類が多いこと、中身が複雑であること、しかし、表に出るゲーム体験は非常にシンプルであること。それが、シンソフィアが目指すゲーム作りだからです。
ルカットをするとコーデの色使いが加点対象となることがありますが、アイテムクリエイトで色相・明度・彩度を細かく設定できる兼ね合いもあり、カラーシステムを独自に設計するなど、色味の判定は裏でかなり複雑な処理を行っています。しかし、その複雑さはプレイしていてもほとんど気にならないと思います。
神山私もシンソフィアさんの目指すゲーム作りに賛同します。好きに遊んで楽しんでいただけたなら、それが何よりです。
滝田今回いろいろとお話させていただいたのは、「好きなように、気楽に楽しんでください」と結論だけお伝えすると「何も考えずに作っているのかな?」と思われてしまうことがあるかもしれない……とも感じたからです。言葉によるコミュニケーションは難しいですね……。
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――言葉によるコミュニケーションは難しく、時に誤解すら与えてしまうからこそ、まずは本作でファッションを介した非言語コミュニケーションを楽しもうということですね。それでは、最後にお一人ずつメッセージをお願いします。
滝田ファッションに深く触れ始めた当初は、世界のトップデザイナーが考える服はとてもコンセプチュアルで、あまり普段から着られないだろうと思っていました。
しかし、そうした最先端の服が持つエッセンスは数年が経つと解釈・調整されて市井のファッションに取り入れられ、街中で見かけるようになります。
その流れを見るうちに、トップデザイナーたちは未来を見据え、ファッションを通して「人にはこういう生き方もある」、「世の中にはこういうことがあってもいい」という発信をしているのだと感じるようになりました。
僕たちも今後ゲームを作るうえで、先人に対する敬意を持ち、未来を見据え、新しいことや、広がりを持つモノづくりにチャレンジしていきます。
神山『ファッションドリーマー』はさまざまな遊び方ができるように作っていて、例えばトップインフルエンサーを目指すうえで必要になるEポイントは、ドローンカメラやフォトエッグで写真を撮るだけでももらえるようになっています。
フォトモードが実装されているゲームは珍しくはありませんが、多くの場合は“ゲーム本編の進行にはあまり関係しないおまけの機能”という位置づけです。本作のように「撮影がメインの目的ではないのに、写真を撮るだけで目的に向かって進めるゲーム」は、なかなかないのではないでしょうか?
また、発売したから終わりではなく、今後もさまざまな展開を考えています。ファッションがお好きな方もそうではない方も、本作に興味を持っていただけたら嬉しいです!
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「ファッションはあなたの個性であり、ユニークなものです」。『ファッションドリーマー』のプレイを始めてすぐ目にすることになる一文を見て、本作はとても優しいゲームなのだと感じました。ファッションは、時に「ダサいか/ダサくないか」という基準で語られますが、そうした文脈は「個性」には当てはまりませんし、ユニークなものであるなら、優劣も付けられません。
ゲームの成り立ちから始まったインタビューは、シンソフィアが目指すべき場所、そして長らく人類が育んできた被服とはいかなる文化であるかというファッション論にまで及び、取材は2時間半の長丁場に。取材陣が終始圧倒されたお二人の情熱が、少しでも伝われば幸いです。
『ファッションドリーマー』は今後も無料アップデートが予定されており、コーデアイテムの追加に加え機能の追加やイベントの開催なども行われるようです。詳細は、『ファッションドリーマー』公式サイトや公式Xをご確認ください。筆者も4姉妹(という脳内設定にした4人のミューズ)を着飾らせつつ、楽しみに待ちたいと思います。
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