
11月16日に発売されたニンテンドースイッチ向けタイトル『桃太郎電鉄ワールド ~地球は希望でまわってる!~』(以下『桃鉄ワールド』)は、タイトル通り世界を舞台にした国民的ボードゲーム『桃鉄』シリーズ最新作です。
広大なマップは、何と球体になっています。地球なのだから球体なのは当然ですが、それでも「地球の上で行動している」という爽快感は格別! 鉄道に乗って全世界を旅する、いいですねぇ。
そんな『桃鉄ワールド』で筆者が特に気になったのは、東南アジアの都市もちゃんと用意されているという点です。
◆鉄道駅と小売店舗

ASEAN諸国は、実は世界有数の「鉄道地域」だったりします。
ベトナムのハノイからホーチミンまで行く鉄道、タイのバンコクからラオス国境付近まで北上する鉄道、インドネシアのジャワ島を走る鉄道等、筆者は様々な路線に乗ってきました。今回はその体験談を交えつつ、『桃鉄ワールド』をプレイしていきましょう。

さて、『桃鉄』は行く先々で資産を購入する「会社経営シム」としての側面があります。停車駅で物件を購入し、決算月に収益を受け取りお金を増やす……。そしてこれは、現実でも広く行われています。
今も昔も「駅近物件」は高い価値を持っています。コンビニもレストランも、駅のすぐ隣にあれば多くのお客さんで賑わいます。従って、外国資本で建設された駅の中にはその国からやって来た小売店や飲食店が入る……ということもよくあります。

もっとも、現実世界と『桃鉄』が違うのは、現実には「ネガティブリスト」というものがあるという点。具体的に言うと、東南アジア諸国では、コンビニを含めた小規模販売店は簡単に外資が進出できないようになっているということです。

これは「バザー」や「パサール」などと呼ばれる伝統的市場を保護するため。また、ローカルの人々が日常利用する小売店舗が外国資本なのはよろしくないと見る向きもあります。
東南アジアの駅へ行ってみると、店舗も持っていない行商人のおばちゃんが飲食物を売り歩いている場面を頻繁に見かけますが、そうした人の働き口を外国資本の小売店が奪ってしまわないかという懸念も叫ばれています。
◆日本でもお馴染みのコンビニが!

ですが、そのあたりも含めて「外交」という手段があるのも事実。
外交の力でネガティブリストが緩和されると、そこに待っているのは“リアル桃鉄”の世界。もちろん上述のように「現地の人との協調」の問題もありますが、それを克服すれば駅とその周辺の発展はまさに待ったなし。

筆者もよく行くインドネシア・ジャカルタの駅にも、外国資本の店舗がいくつも進出しています。この記事に掲載の写真は2019年のものですが、当時は日本を含む各国が『桃鉄』さながらの投資合戦を繰り広げていました。
そんな駅構内には、なんとファミリーマートがあります!

現地市民が日常利用するコンビニから、新しい文化が生まれるということもよくあります。
例えばポッキーやアクエリアス、リポビタンD、ヤクルト、オロナミンCといった日本ではお馴染みの商品はインドネシアでもよく見かけます。これは「ワルン」と呼ばれる個人経営のお店や、それに商品を卸すグロシール(問屋)の役割も大きいのですが、やはりコンビニの影響力も見逃せません。
鉄道駅があればコンビニを作ることができ、コンビニがあればこの国にそれまでなかった商品をセールスすることができます。
◆日本製の中古車両

さて、インドネシアを含む東南アジア諸国の鉄道といえば、日本から購入した中古車両が稼働している事実を忘れてはいけません。
規格さえ合えば日本からの払い下げ車両を走らせることができ、しかも国鉄時代の日本の車両は丈夫で長持ちすることでも知られています。ただし、このあたりは国政議会の政治家の間で良しとしない人も少なくなく、実際にインドネシアでは「外国からの中古車両輸入禁止」が決定しました。
これは閣僚の間でも意見に温度差があったようですが、ひとつ言えるのは今まで行われていた「日本製の中古車両の導入」はあくまでも「つなぎの手段」だったという点。インドネシアの中央政府は、以前から外国資本に対して国内の車両製造分野への投資を呼びかけていました。この国は伝統的に内資を優先する政策を採用することで有名です。
◆各国の文化に対する敬意

現実の鉄道事業にはそうしたややこしさもありますが、『桃鉄ワールド』は「鉄道事業の面白さ」を上手く抽出した作品だと筆者は感じました。

また、上述の球体マップは見回すだけでも面白い! 地球は丸いんですよ、やっぱり。何と南極にも駅がある仕様で、周りの小島にはペンギンが。可愛い!
『桃鉄ワールド』をプレイして特に強く感じたのが、「各国文化の尊重」です。類似ジャンルの『人生ゲーム for Nintendo Switch』には、極力ネガティブな人生にならないような配慮が施されていました。完全失業という概念がなく、さらに同性結婚ができる設計になっています。
『桃鉄ワールド』の場合は、世界各国の文化・産業・風習に対する敬意が表現されています。近年の国際情勢は戦争や動乱が立て続いて暗い雰囲気ですが、『桃鉄ワールド』は世界各国の人が車座になって楽しむことができる設計に仕上がっています。
とりあえず、毎日少しずつ時間を割いて100年プレイに挑戦してみましょう!