女性による“遺跡探検”の先駆け!『トゥームレイダー I-III リマスター』から振り返る「ララ・クロフト」の功績

『トゥームレイダー 』ララの功績を振り返る!

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女性による“遺跡探検”の先駆け!『トゥームレイダー I-III リマスター』から振り返る「ララ・クロフト」の功績
女性による“遺跡探検”の先駆け!『トゥームレイダー I-III リマスター』から振り返る「ララ・クロフト」の功績 全 7 枚 拡大写真

PS5/PS4/ニンテンドースイッチ向け『トゥームレイダー I-III リマスター』が、先日11月28日に発売されました。

『トゥームレイダー』初期3部作のリマスター版が遊べるこの作品、主人公のララ・クロフトも、カクカクポリゴンからややアニメチックな感じにリファインされています。その上で、ララの身体能力から生まれるアクションを視覚で楽しめる仕上がりになっています。

両太腿に装着したホルスターから二丁拳銃を抜き、襲い掛かる敵や動物を次々に倒しながら進むララ。今や見慣れた彼女の大活躍ですが、『トゥームレイダー』第1作が発売された当時は「女性がひとりで遺跡を探検する」という設定はまだ珍しいものでした。

そうした背景があるからこそ、ララの活躍は「女性の権利向上」につながっていきました。

◆探検は「男性のもの」だった

ララは『トゥームレイダー』の開発当初から計画されていた主人公ではなく、ある段階までは男性主人公になる予定だったといいます。

しかし、遺跡探検ものの主人公を男性にしてしまうと、どうしても映画『インディ・ジョーンズ』のようになってしまうという理由で性別が変更されたとのこと。それが奏功し、ララ・クロフトは「遺跡の謎に雄々しく挑戦する勇敢な女性」として当時のゲームファンに強烈な印象を与えました。

これは言い換えれば、『トゥームレイダー』以前は「女性が主人公のアドベンチャー作品」がゲームにも映画にもドラマにもあまりなかったということでもあります。

たとえば、日本ではかつてテレビ朝日が『川口浩探検隊シリーズ』という特番を制作していました。俳優の川口浩を隊長にした探検隊が、ジャングルの奥地に潜む巨大怪蛇ゴーグや原始猿人バーゴンを捜索するという内容です。

その真偽はさておき、川口探検隊には女性はいません。もう少し正確に言えば、番組内で女性も出てくるのですが、「男性は探検、女性は情報補佐と現地観光レポート」という明確な役割が与えられていました。

その概念が当時の常識であったからこそ、ララはゲーム史にその名を刻む女性主人公になるべくしてなった、と考えられないでしょうか。

◆固定観念を打破するキャラクター

ここで話は変わります。

読者の皆様は、『スタートレック』というSFドラマをご存じでしょうか? アメリカでは絶大な人気を誇り、テレビドラマだけでなく映画が13本も作られているシリーズ作品です。

この『スタートレック』の最初期シリーズ(日本では『宇宙大作戦』という邦題で放映されました)には、宇宙船エンタープライズの通信士官ウラ中尉というキャラクターがいました。演じたのは黒人女優のニシェル・ニコルズです。

ウラ中尉は作品のレギュラーメンバーですが、当のニシェルは番組を降板したがっていたといいます。そんな彼女に対して、

「ニシェル、降板しないでくれ。君の演じるウラ中尉は、私の家族全員で毎週視聴してるんだ」

と、説得した人物が現れました。公民権運動の中心人物、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア(キング牧師)です。

キング牧師は、単にウラ中尉のファンというわけではありませんでした。『スタートレック』第1~3シーズンが放映されていた60年代後半、ドラマに出てくる黒人女性といえばメイドか召使い、そうでなければ単純労働者の役回りばかりでした。知的で高度な技能を持っている女性は、みんな金髪の白人です。

しかし、黒人女性のウラ中尉はエンタープライズ号の士官として、未来の最先端機器を自在に操ります。白人男性と対等の立場で意見を交わし、彼らと力を合わせて危機や困難を乗り切っていきます。『スタートレック』の一視聴者だったキング牧師は、ウラ中尉というキャラクターの斬新さや先進性に気づいていたのです。

◆腕力ではなく、体全体を使う動作

映画やドラマ、そしてゲームには時としてウラ中尉のような「現実世界の固定観念を打破するキャラ」が登場します。ララ・クラフトも、まさにそのようなタイプのキャラクターではないでしょうか。

女性は男性よりも体重が軽く、肉体の柔軟性にも富んでいます。男性は上半身の力に頼りがちで、重いものを見ると自ら進んでそれを持ち上げようとします。そのあたりの身体的特性も、『トゥームレイダー』はちゃんと描写しています。

ララは「自重を支える筋力」に恵まれています。懸垂や逆立ち、水泳、崖の端を掴みながらの横移動を難なくこなすことができます。逆立ちの際に見せてくれる体のしなやかさ、瞬間的な瞬発力も彼女の持ち味です。

巨大なブロックを押す際、男性であれば腕を突っ張らせようとします。しかし、ララは腕ではなく体全体の傾き、そして前進するための下半身の力を利用してブロックを押し込みます。これは重力を味方につけた動作と言えます。ララは女性ならではの身体能力を、これでもかと活用しているのです。

「柔らかい力によるアクション」は、「アドベンチャーは男性のもの」という固定観念を打ち破るには十分過ぎる説得力を持っていました。

◆堂々と銃を構える女性

『トゥームレイダー』第1作から第3作が発売されたのは、1997~1999年。この時代、世界は既に「女性は時として男性以上に強くなる」ということを目撃していました。

「鉄の女」と呼ばれたイギリス首相マーガレット・サッチャーの記憶はまだ新しく、またこの時代のアメリカの国務長官はマデレーン・オルブライトという人物でした。サッチャー首相とオルブライト国務長官、この2人に共通するのは「いざとなれば攻撃も辞さない」という姿勢です。

サッチャー首相は、アルゼンチン軍の突然の侵攻に見舞われたフォークランド諸島に機動艦隊と陸軍兵力を送り、容赦のない反撃を指示しました。オルブライト国務長官は、西側諸国をまとめてコソボ空爆への道筋を切り開きました。その賛否はともかく、「女性は元来平和主義者で武器を取らない」という固定観念はここに崩れ去りました。

『トゥームレイダー』が登場した頃、世界は既に「堂々と銃を構える女性」を目撃していたのです。二丁拳銃の女性トレジャーハンターは、たちまちのうちに世界のゲーム愛好者に受容されていきました。

その上で、ララの場合は上述の通り「女性だけができるアクション」を持っています。強さと柔軟さを両立させたララは、それ故に新鮮かつ強烈な印象を放つに至りました。

◆『トゥームレイダー』は唯一無二

「柔らかい力」を発揮するララの動きには、「無理やり感」というものが全くありません。男性に負けじと無理やり男性がやるような動作をしているのではない、という意味です。

だからこそ、ララのアクションは誰しもを唸らせることができるのではないでしょうか。

『トゥームレイダー』を「女性版インディ・ジョーンズ」と表現する場面を今でも見かけますが、筆者はその表現にはついつい首をかしげてしまいます。このゲームは、『インディ・ジョーンズ』に敬意を払いながらも男性であるジョーンズには決してできないであろう動作を盛り込んでいます。『トゥームレイダー』とララは、やはり唯一無二なのです。

そんな「柔らかい力によるアクション」を堪能できる『トゥームレイダー I-III リマスター』は、年の瀬に流星の如く現れた良作と言えるでしょう。


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《澤田 真一》

ゲーム×社会情勢研究家です。 澤田 真一

「ゲームから見る現代」をテーマに記事を執筆します。

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