eスポーツが変える地域と福祉―共生社会実現に向けたeスポーツの活用事例と課題とは【東京eスポーツフェスタ2025】

高齢者や障害者の参加促進、世代間交流の可能性に焦点が当てられ、具体例も紹介されました。

ゲーム eスポーツ
eスポーツが変える地域と福祉―共生社会実現に向けたeスポーツの活用事例と課題とは【東京eスポーツフェスタ2025】
eスポーツが変える地域と福祉―共生社会実現に向けたeスポーツの活用事例と課題とは【東京eスポーツフェスタ2025】 全 10 枚 拡大写真

2025年1月10~12日、「東京eスポーツフェスタ2025」が今年も東京ビッグサイトで開催されました。本イベントは、eスポーツのさらなる普及と関連産業の発展を目指す場として、最新技術を駆使した製品展示や体験型エリアが充実。訪れた人々が、eスポーツを通じた新たな可能性に触れる貴重な機会となりました。

本記事では、「共生社会実現に向けたeスポーツの活用」をテーマにしたJeSUパネルディスカッションの模様をお届けします。

多様な視点からeスポーツの可能性を掘り下げ、共生社会の実現に向けた具体的な取り組みや新たな視点をご紹介します。

忙しい方向けに2つのポイントで整理

本セッションでは、「eスポーツを活用した共生社会の実現」と「地域や福祉分野でのeスポーツの活用方法」の2つのテーマが中心に議論されました。

この2つのポイントは、eスポーツを社会課題解決の手段として捉えるうえで重要な視点であり、興味のある方はぜひ知っておくべき内容でしょう。

eスポーツは世代間・地域間をつなぐツール

セッションでは、eスポーツが「世代や地域を超えたつながりを生み出すツール」としての可能性について語られました。例えば、新潟県三条市の事例では、高齢者と若者がeスポーツを通じて交流し、孤立や高齢化といった社会課題に向き合う取り組みが紹介されました。

三条市副市長の上田泰成氏は「高齢者と若者が同じゲームをプレイすることで、自然と世代を超えたコミュニケーションが生まれた」と語り、実際に高齢者を対象としたeスポーツ体験会で93%という高い満足度を得た具体例を示しました。

このように、eスポーツが地域社会の絆を強化する一助となる点が強調されました。

障害者や高齢者も参加できる「共生の場」としてのeスポーツ

もう一つの重要なポイントは、eスポーツが障害者や高齢者の社会参加を促進する手段として活用されている点です。東京都作業療法士会の楠本直紀氏は「リハビリや福祉の現場で、eスポーツが社会参加の窓口になり得る」と述べ、実際の取り組みとして障害者施設でのゲーム体験や、アクセシビリティを考慮したゲームコントローラーの導入を紹介しました。

さらに、作業療法士と連携しながら、特別なスイッチやシンプルなゲームを活用して、参加のハードルを下げる工夫も進められています。これにより、障害者や高齢者が「楽しみ」だけでなく「つながり」を実感できる場を提供することができるといいます。

本セッションは、eスポーツが単なる娯楽や競技を超え、社会課題の解決やコミュニティづくりに寄与する可能性を示唆する貴重な時間となりました。

登壇者紹介

本セッションの登壇者を紹介します。

田中栄一氏
一般社団法人ユニバーサルeスポーツネットワーク代表理事
一般社団法人日本eスポーツ連合 医事委員

すべての人がeスポーツの可能性を享受できる社会を目指して活動する第一人者として、2020年4月、一般社団法人ユニバーサルeスポーツネットワーク(ユニーズ)を設立。

情報発信、体験会、個別相談を通じ、多様な参加者が学び、楽しみ、共有できる機会を提供している。これまでに「チャレスポ!TOKYO」での体験会や、障がい者や高齢者を対象としたイベントを開催し、誰もが参加できるeスポーツの普及に尽力している。

さらに、国立病院機構八雲病院での作業療法士としての経験を活かし、筋ジストロフィーや脊髄性筋萎縮症(SMA)などの疾患を持つ人々に対するスイッチの選択・フィッティングや生活支援に取り組んできた。その熟練した技術と個々のニーズを汲み取る繊細な対応は「職人技」とも称される。

上田 泰成氏 新潟県三条市 副市長

キャリア官僚出身の地方自治体リーダーであり、2023年に新潟県三条市の副市長に就任した。同志社大学法学部を卒業後、文部科学省に入省し、義務教育関連の業務を担当。その後、経済産業省に転じ、不正競争防止法の改正や成長戦略実行計画の策定など、知的財産政策に携わる。

2021年には商務情報政策局コンテンツ産業課課長補佐として、eスポーツやメタバース、NFTを含むデジタルコンテンツ分野の推進に注力し、日本の成長産業としての地位確立に貢献した。

副市長としては、地域課題の解決と地域活性化に向けた数々の施策を展開している。特に、eスポーツプロジェクトの立ち上げや高齢者向けeスポーツ体験会の開催を通じて、世代間交流を促進。さらに、空き家を活用したワーケーションの推進や、地方自治体のDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速させる取り組みも進めている。

三条市での活動は、若手リーダーとしての柔軟な発想と政策実行力を活かし、多方面で注目を集めている。

楠本 直紀氏 一般社団法人 東京都作業療法士会 スポーツ支援委員会 担当理事

作業療法分野における豊富な知識と経験を持つ専門家。2004年に東京都立保健科学大学 保健科学部 作業療法学科を卒業後、2012年に首都大学東京大学院 人間健康科学研究科 人間健康科学専攻 作業療法科学域を修了。以来、作業療法の実践と研究の両面で活躍してきた。

2018年より一般社団法人 東京都作業療法士会の理事を務め、スポーツ支援委員会の担当理事として、スポーツとリハビリテーションの融合に取り組んでいる。2023年からは東京都立大学 人間健康科学研究科 作業療法科学域の客員研究員としても活動し、作業療法の発展と教育に寄与している。

注目の議題を3つピックアップ

さまざまな視点から「共生社会実現に向けたeスポーツの活用」をテーマにした議論が繰り広げられた本セッションについて、筆者が特に注目した議題を3つご紹介します。

eスポーツを通じた世代間交流の促進

新潟県三条市副市長の上田氏が語った『太鼓の達人』を活用した高齢者支援プログラムは、eスポーツが地域コミュニティにおける世代間交流を促進する可能性を示しました。イベントでは、高校生がスタッフとして参加し、高齢者と直接触れ合う機会となったようです。

この取り組みは、若年層と高齢者の間に新しい形のつながりを生み出し、参加者アンケートでも「若い人たちとの交流が楽しかった」との声が多く寄せられたとのこと。

また、eスポーツを通じて孫世代と共有できる趣味を提供することで、家族間のコミュニケーション向上にも寄与していることが分かりました。世代間のギャップを埋め、地域全体のつながりを強化する点で、他地域への応用が期待されます。

高齢者・障害者に向けたシンプルゲームの開発

筋ジストロフィーで入院しながらゲーム制作を行う中村司氏からは「シンプルゲーム」のコンセプトについて説明がありました。高齢者や障害を持つ方々にとってのeスポーツのハードルを大幅に下げる可能性を持つアイデアです。

「操作が複雑で参加が難しい」という課題に応えるため、簡単なルールと最小限の操作で楽しめるゲームを開発し、幅広い層が参加可能な環境を整えることを目指しています。

また、中村氏は自身の経験から、ゲームは「楽しむ」だけでなく「人とつながるためのツール」であることを強調しました。この取り組みは、ゲームが社会的孤立を防ぎ、新たな交流の場を提供する手段となり得ることを示しています。

eスポーツを活用した地方課題の解決

セッションでは「地方自治体がeスポーツをどのように活用して地域課題を解決しているか」についても議論が展開。その中で上田氏は「男性高齢者の参加率向上」という課題への取り組み強化が大事だと強調しました。

男性高齢者は、女性に比べてコミュニティ活動への参加が少ない傾向があり、地域社会で孤立しやすいそうです。この問題に対し、自治体がeスポーツを活用し、男性が参加しやすい環境やインセンティブ(例えば、孫と一緒に参加する大会や賞金付きイベント)を提供することで、徐々に改善が見られるのではないかと議論が展開されました。

eスポーツを入り口に、デジタル技術や行政サービスへの関心を高める効果も指摘され、地域課題解決の新たなモデルとして期待されています。

また、地域特性を活かしたeスポーツの活用も議題に挙がりました。楠本氏は「地域ごとに特色あるゲームやテーマを取り入れることで、eスポーツイベントがその土地特有の文化や魅力を発信する手段にもなる」のではないかと提案していました。

まとめ:事例や実績の共有だけでなく、課題の共有を

本セッションは、eスポーツが地域社会や福祉分野にどのような価値を提供できるのかを考える貴重な機会となりました。

その一方、時間の都合上、それぞれのプロジェクトがどのような課題に直面し、どのように解決したのか、詳細部分を知るには至りませんでしたので、この点については、今後より深堀して取材していきたいと感じました。

また筆者は、障がい者向けのゲーム開発の技術的な側面に関心があったので、アクセシブルなコントローラーやシンプルゲームの開発について、具体的にどのような技術や開発プロセスが用いられて、現状どのような課題があるのか知りたいところではありました。

こういったオープンな場でのセッションは、多くの関係者の目に触れる機会なので、(時間の都合はあるものの)事例や実績だけでなく課題も共有することで、より多くの方の協力を得られ、登壇者たちのプロジェクトがさらに推進する機会になるでしょう。

《Ogawa Shota》

この記事の写真

/
【注目の記事】[PR]

特集

関連ニュース