
2025年2月に正式リリースされた理不尽都市アクション『トライブナイン』が、同年11月27日をもってサービス終了を迎えると発表されました。本作は『ダンガンロンパ』シリーズで知られる小高和剛氏をはじめとしたトゥーキョーゲームスが原案をつとめており、アカツキゲームスが開発を担当する布陣のもと生み出された意欲作でした。
筆者はプレイレポートを執筆しましたが、プレイを通して本作にはポテンシャルを感じられましたし、このままサービスを継続していけば根強いファンが付いてくるのではないかと考えていました。
しかし結果としては配信開始から9カ月でサービスを終えてしまいます。公式サイトにはサービス終了理由として、「3章 ネオチヨダシティ公開後の新規プレイヤーの参入数や遊んでいただいているプレイヤーの数、商品の売上のいずれもが、当初想定していた数値を大きく下回る結果となってしまいました」と記載されています。
それならばなぜ“面白い”本作の売上がふるわず短命に終わってしまったのか、レビュー・批評形式で考察していきたいと思います。また前提として本稿は、あくまで周辺情報や実際のプレイ感をもとに執筆した記事です。決して公式発表ではないことは念頭に置き、『トライブナイン』を諦めきれないライターの妄想として受け取ってもらえれば幸いです。
◆「トゥーキョーゲームス」ファンとアクションゲーマー層のズレ
『トライブナイン』は、プレイレポートでご紹介したように、手ごたえのある高難易度アクションが売りです。操作キャラクターを切り替えながら最適な行動を回し、敵の苛烈な攻撃を見極めながらパリィをおこなって隙を作り出していきます。
特に「フラクタルヴァイス」という高難易度ダンジョンは、ジャンルどおり「理不尽」にも思えるやりごたえがありました。しかし本作のメインプレイヤー層と考えられる小高氏のタイトルを支持してきた層と、「高難易度アクション」という方向性が必ずしも一致していなかった可能性があります。
それは『ダンガンロンパ』のようなアドベンチャーに親しんできたファンにとって、リアルタイム操作を求められる本作のバトルはやや敷居が高いのではないかということ。小高氏のファンはアクションゲームへのジャンル横断をしないとは決して言いませんが、筆者のようにアクションが苦手なプレイヤーも内包しているはずです。
そして同氏の作品はこれまで「買い切り」だったこともあり、日々の育成や周回プレイなどを継続することを求められる本作と、ファンが想定するゲームとの“プレイ体験のギャップ”があったことが一因として考えられます。


また対照的に、高難易度バトルに惹かれて参入したアクション好きなゲーマーも存在すると思いますが、その層からしてみるとアクションが肝ながら本作のプレイ体験の大半はストーリーや探索に軸を置いています。
結果として本作は、小高氏ゆずりの重厚なストーリー×探索重視のRPG体験×高難易度アクションとジャンルかけ合わせたことで、刺さる人にはピンポイントで刺さるタイトルに仕上がりつつ、トゥーキョーゲームスファンおよびアクションゲーマー双方の期待に応えることが難しいバランスとなってしまったのではないでしょうか。

またスマートフォン版もあるためあくまで一例ですが、Steamの非公式データベースサイト「SteamDB」を確認すると、サービス終了発表の5月15日直前のアクティブユーザーが800人ほどのため、想定ほどプレイヤー層が定着していなかったのではないかと思われます。
◆アニメと独立したシナリオとゲームリリースまでの空白期間
『トライブナイン』はメディアミックスを前提としたIPであり、テレビアニメは2022年1月に放送。ゲーム版はそこから約3年の期間を経てリリースされました。2年後が舞台のゲーム版はゼロの侵攻による影響で、アニメにおいてメインで扱われていていた「XB(エクストリームベースボール)」が衰退しています。
これは独立したストーリーにすることで新規層を呼び込むことを目的としたと思われます。実際配信前のプロモーションもアニメを押し出すような形ではなく、配信約1カ月後の3月14日よりようやく1日1話ずつアニメ版の無料配信がはじまりました。
そのため、私を含め「なんだか昔聞いたことがあるアニメのゲーム版らしい」というフワフワした状態で、リリースを迎えてしまったように思います。実際にプレイレポの反応を確認したときは、「野球ゲームじゃなくてアクションゲームだったの?」という声が多かったのも印象的でした。
しかし筆者がプレイ前に考えていたように、どれだけゲームからプレイしても大丈夫と言われても時系列の直接続編ということで、ハードルの高さを感じる人もいたのではないでしょうか。またアニメ版のファンだった方も3年が経ち、記憶が薄れたタイミングでのゲーム配信となり「この作品ってどんな内容だったっけ?」という再認識の手間がかかります。
またアニメに触れていた人こそ、なまじ設定が一新されていることで「野球をベースしていたはずなのに、デスゲームに変貌している」と飲み込みにくさを感じたかもしれません。

実際にプレイしてみればアニメ版を知らなくても十分に楽しめ、アニメを見てからプレイするとキャラクターやシナリオの味わいが増す相互補完的な関係なことが理解できました。
特にアニメ版の重要人物「神谷瞬」との関連を匂わせるゼロや、主人公「黒中曜」の不安定な言動がフックとして機能。「ゼロの真意とは?」「曜は記憶を失う前、どんな人物だったのか」といった縦軸の謎と、各章の起承転結によって物語に引き込まれる体験は、シナリオ執筆はされていませんが小高氏の作品を彷彿とさせました。
◆トゥーキョーゲームスという看板とキャラクター関連のマネタイズ
また、『トライブナイン』だからこそと言える要因も1点あったと考えられます。それは同じく、トゥーキョーゲームスが関わるアドベンチャーゲーム『ハンドレッドライン』との混同です。
「ナイン」と「ライン」という語感も似ており、双方ともにキャラクター原案/デザインを小松崎類氏が担当しています。ゲームライターとして日々ゲームニュースに触れていると、「まさか!」と思ってしまいがちですが、普段からゲームについてチェックしている層は限られているでしょう。
そのため「小高さんや小松崎さんが関わるゲームが、2025年上半期にリリースされるらしい」という情報だけを拾うと、『トライブナイン』と『ハンドレッドライン』の判別ができません。実際にX(旧Twitter)で「トライブナイン ハンドレッドライン」と検索すると「どっちがどっちだっけ?」という旨の声が散見されます。このように、タイトルの記憶定着ができていなかった側面もあるのではないでしょうか。
前述したトゥーキョーゲームスによる個性的なキャラクターは、運営型のタイトルとしてガチャを引く動機として十分成立していたと考えます。本作のガチャはスタンダートシンクロ(恒常ガチャ)とイベントシンクロ(限定ガチャ)の2種で、限定キャラクターのピックアップ期間も1カ月と長期間です。またゲーム内のサブコンテンツでエニグマエンティティ(ガチャ石)と、シンクロメダル(恒常ガチャチケット)が多めに付与されます。
そして何よりサービス開始後に、最高レアのガチャ排出率を0.6%から2%に上昇するという仕様変更が存在。関連してそれまでに使用したエニグマエンティティおよび、シンクロメダルの返還という出来事がありました。大量の石が返還&ガチャも長期間ガチャのラインナップが更新されないため、ガチャ石の使い道が限られていました。そのため石が余っていたユーザーもおり、課金控えが起きていたケースも考えられます。
『トライブナイン』は冒頭に記したように、大きなポテンシャルを感じていました。その分、ゲーム配信後約3カ月でのサービス終了発表に現実味が感じられず、このような記事を書いています。
「もう終わってしまうゲームの紹介をして何になるのか」という読者もいるかもしれませんが、筆者はプレイした時間が無駄になったとは思いません。更新が止まってしまったため「ぜひプレイしてほしい」とは言いにくいですが、3章まで楽しませてもらったのは事実です。サ終の事実を理解しつつ少しでも興味がある人は、「見届け」の意味も込めて今からでも遊んでほしいと思います。
改めて並べてみると、ゲーム性とターゲットのミスマッチやIP展開のタイミングの悪さは感じられましたが、まだまだ伸びる芽のあったタイトルだったと今でも考えています。そして逆に『トライブナイン』ですら生き残れないゲーム戦国時代に、今後どのような作品が生まれてくるのか注目したいです。