『ToHeart』の“青春”は、いつも驚きと共に─恋愛ゲーム史の転換期となり、令和にも新たな衝撃をもたらした名作ADVの歩みとは

プレイヤーたちの青春の追体験を味わわせてくれた『ToHeart』は、常に想像を超える展開を続け、驚きをもたらしました。

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『ToHeart』の“青春”は、いつも驚きと共に─恋愛ゲーム史の転換期となり、令和にも新たな衝撃をもたらした名作ADVの歩みとは
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恋愛ADV『ToHeart』が、ニンテンドースイッチとSteamに向け、2025年6月26日にリリースされました。

この『ToHeart』は完全新作ではなく、新生と呼ぶべき復活作。その原点を辿ればなんと1997年にまで遡る、歴史の長い恋愛ADVです。当時、プレイヤーの多くを魅了した『ToHeart』は、なんたる良作の枠に留まらず、恋愛ゲーム史にも大きな足跡を残す名作として知られました。

『ToHeart』は、作品を通してプレイヤーたちに“青春”を提供しますが、その青春には常に驚きが伴っていました。それは当時だけでなく、後の展開や新生『ToHeart』も例外ではありません。

90年代後半から令和7年まで、『ToHeart』はどのような青春と驚きをプレイヤーに与えてきたのか。その足跡を思い出と共に振り返ります。

■恋愛ゲーム市場が迎えたが波乱の時期に登場した『To Heart』

恋愛ゲームそのものは1980年代にもありましたが、ジャンルとして定着し、ファン以外の間にも知られるようになったのは1990年代頃になります。

90年代前半に『同級生』がPC向にリリースされ、1994年には家庭用向けの恋愛SLG『ときめきメモリアル』が登場。こうしたエポックな作品たちにより、恋愛ゲームの魅力が広く知られました。

特に『ときめきメモリアル』(および、後にリリースされたPS版『ときめきメモリアル~forever with you~』)の影響力は凄まじく、家庭用向けに様々な恋愛SLGが乱発され、まるで雨後のたけのこの如しでした。

しかし、ジャンルの波に乗っかっただけの残念な出来のタイトルも一部存在したため、恋愛ゲームが盛り上がる一方で、玉石混交な市場に振り回され、一歩引く人も少なからずいました。そんな混乱期に登場したのが、PC版『To Heart』でした。

■ビジュアルノベルシリーズなのに、王道の恋愛ADV!?

PC版『To Heart』は、Leafブランドから発売されたタイトルで、『雫』、『痕』に続くビジュアルノベルシリーズの第3弾という位置づけでした。ただし、『雫』と『痕』はいずれも恋愛要素をメインとしたものではなく、『雫』はサイコサスペンス、『痕』は伝奇の要素が色濃く、それまでのビジュアルノベルシリーズはダーク寄りの作風でした。

その第3弾として発表されたPC版『To Heart』は、ロボットや超能力といった要素こそあれ、純然たる学園モノ。起きる事件も、『雫』や『痕』と比べるとごく平凡で、日常の範疇に収まるものがほとんどでした。

ビジュアルノベルシリーズなのに、『雫』と『痕』の路線から大きく変わり、明るく楽しい恋愛ADVであるPC版『To Heart』は、まずはその発表自体に当時のユーザーが驚かされました。

■『To Heart』が恋愛ADV市場の起爆剤に

シリーズとしての路線は大きく変わったものの、PC版『To Heart』は非常に魅力的で、実際にプレイしたユーザーは個性的なヒロインたちに心を揺さぶられていきます。

幼なじみという距離感を雄弁に描いた「神岸あかり」、黒魔術に傾倒するという一見突飛な設定ながら、放課後の青春劇を鮮やかに綴った「来栖川 芹香」など、ヒロイン個別の物語が、プレイヤーの心に深く刺さり、忘れ得ぬ思い出として刻まれました。

特に、「HMX-12“マルチ”」と名付けられたメイドロボのキャラクター性と物語は、ロボットだからこその純粋すぎるマルチの想いがプレイヤーの涙腺を次々と崩壊させます。

こうしたPC版『To Heart』は1997年に発売され、PCゲームでは指折りの大ヒットを飾ります。そして2年後に登場したPS版『ToHeart』の人気も相まって、恋愛ADVに新たな活気をもたらしました。

PC版とPS版の成功をきっかけに、ユーザーが新たな恋愛ゲームを改めて求め、各メーカーも恋愛に特化したADV開発を本格化。他社の作品ですが、PS版と同年発売の『Kanon』のヒットも後押しとなり、恋愛ゲーム市場が2度目の盛り上がりを迎えたのです。

悪貨が良貨を駆逐しかけていた恋愛ゲーム市場に、この上ない良貨として投じられた『ToHeart』によってブームが再燃。もちろん他の作品も好転に貢献していますが、『ToHeart』の存在と成功なくしては語れないのも事実。長い目で見ても、今日の恋愛ゲーム市場に少なからぬ影響を与えた作品と言えるでしょう。

■単なる移植に留まらないPS版

恋愛ゲーム市場に影響を与え、ユーザーに多大な恩恵と驚きを与えた『ToHeart』ですが、実はPS版自体にも大きく驚かされました。

当時のPC向け恋愛ADVは成年向けがほとんどで、そのままでは家庭用向けに移植できないものばかり。そのため成年向けの描写を削り、前後のつじつまを合わせて修正したものを家庭用版としてリリースするのが基本でした。

画像はPSP版『ToHeart』

PS版『ToHeart』も当然、成年向けの描写が削られました……が、修正はそれだけに留まらず、なんとシナリオ全般に手が入る大規模の改修が行われます。特に、「長岡志保」や「姫川琴音」、「宮内 レミィ」といったヒロイン勢のシナリオは抜本的に変わり、PC版とは異なる新たな物語と呼んでもいいほどでした。

また、PC版では隠しキャラ的な立場だったためか、シナリオが短かった「雛山理緒」もPS版でボリュームが増し、ひとりのヒロインとして遜色ない立場に。このほかのヒロインたちのシナリオも手が入っており、同じタイトルなのにまるで別の作品のような新鮮さがありました。

PS版では「来栖川綾香」が新ヒロインとして加わったり、フルボイス化を果たすなど、移植に当たってオーソドックスな追加や進化などもありました。しかし、シナリオの大幅な改修となると、かなり稀有な事例です。そのこだわりの制作姿勢に、PC版経験者たちは軒並み度肝を抜かれました。また、改修後のシナリオも全体的に評価が高く、PS版だけで2度驚かされることとなります。




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《臥待 弦》

楽する為に努力する雑食系ライター 臥待 弦

世間のブームとズレた時間差でファミコンにハマり、主だった家庭用ゲーム機を遊び続けてきたフリーライター。ゲームブックやTRPGなどの沼にもどっぷり浸かった。ゲームのシナリオや漫画原作などの文字書き仕事を経て、今はゲーム記事の執筆に邁進中。「隠れた名作を、隠れていない名作に」が、ゲームライターとしての目標。隙あらば、あまり知られていない作品にスポットを当てたがる。仕事は幅広く募集中。

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