
ゲームを楽しむスタイルは、時代の変化と共に移り変わり、多様化しました。特にスマートデバイスの普及以降は、電車やバスでの移動など、いわゆる「隙間時間」に遊べる作品が急速に増え、ゲームに向き合う時間の使い方が変わった人も多くいます。
隙間時間で楽しめる手軽さに慣れ親しむ一方で、クリアまで時間のかかるボリュームの大きなゲームを避ける傾向も見られるように。もちろん全てのゲーマーに当てはまるわけではありませんが、コストパフォーマンスならぬ「タイムパフォーマンス」、通称“タイパ”を重視するプレイヤーもいます。

そんな現代社会真っ只中の2025年9月19日にリリースされる『空の軌跡 the 1st(以下、空の軌跡 1st)』は、2004年発売の『英雄伝説 空の軌跡FC』をベースにフルリメイクした大作RPGです。
原作も遊び応え十分の内容でしたが、リメイクされた『空の軌跡 1st』はビジュアル、ゲームシステム、新たな演出で描かれる物語、その全てがパワーアップしており、まさしく大作と呼ぶに相応しい仕上がりとなっています。
今回筆者は、本作を発売前に体験する機会に恵まれたため、タイパの視点を意識しながら遊んだところ、プレイ時間はあっという間に過ぎ、非常に濃密なひとときを過ごすことができました。

◆20年もの歴史の最先端に立つ『空の軌跡 the 1st』―フル3D化&ボイスの恩恵で、一際増した臨場感
タイパが良いとされている隙間時間を活用できるゲームとは違い、クリアまで何十時間もかかるような本作。あくまで筆者の例ですが、エンディングまでのプレイ時間は50時間越えで、決して隙間時間だけで終わるような短い体験ではありません。
しかし、時間を価値として考えた費用対効果という意味で、本作はタイパに優れた作品だったと個人的に断言できます。令和に蘇る『空の軌跡 1st』のキャッチコピーは、「忘れられない旅になる」。筆者はまさにその言葉が相応しい旅を、プレイを通じて経験してきました。

『英雄伝説 空の軌跡FC』から始まった『軌跡』シリーズは、シリーズ最新作の『英雄伝説 界の軌跡 -Farewell, O Zemuria-』まで、20年もの時間をかけて2桁にのぼるナンバリング作品を積み重ねてきています。
これだけの時間と作品によって広がった『軌跡』シリーズの世界と物語は、並大抵の作品とは比べものにならない濃密さと奥深さを備えています。そうした背景を下地に、原点を改めてリメイクした『空の軌跡 1st』は、この上なく足場が固められた作品です。


20年を超えるRPGシリーズの原点だけに、『空の軌跡 1st』では大陸を揺るがす大事件の発端を描く重要な物語が送られます。
王道かつ骨太なストーリーは原作でも十分な魅力を放っていましたが、フルリメイクによって等身の高いキャラクターたちによる表情変化と動作が加わったことで、より豊かで細やかな描写が可能となりました。
さらに、シーンの多くでキャラクターにボイスが付き、本格派声優陣による演技に彩られたことで、臨場感が格段に増加。3D化とボイスによる恩恵が、密度の濃さとなって長時間プレイした際の満足度、タイパを向上させています。

戸惑いから羞恥に変わる表情や、笑顔が次第に消えていく口元など、ささやかながら確実に分かるキャラクターの表情変化が豊かに表現されている点も、『空の軌跡 1st』の良さである“濃密な体験”に他なりません。
さらに物語の構成も丁寧で、序章や1章での出会いが終盤で意外な伏線となり、佳境の展開に深く関わるなど、集約していく展開の数々には痺れました。それでいて、各章は独立して話がまとまっているため、ストーリーに飽きを感じることがなく、テンポの良い進行のまま最後まで楽しめます。

また、物語上で見るべきポイントは、メインストーリーだけではありません。本作では、依頼という形で様々な「サブクエスト」を任意で受けられます。
そして、本作のサブクエストは“単なるおつかい”ではなく、“キャラクターや世界をより深く知る有用なひととき”なのです。一見クリアには関係のない寄り道に見えるコンテンツだけれど、遊べば遊ぶほどプレイヤーにとって意味のある時間になっていきます。
『空の軌跡 the 1st』公式サイトはコチラ!◆RPGなのにアクションで時短!? タイパ最強のシステム「ハイスピードモード」も

『空の軌跡 1st』におけるタイパの良さは、濃密さだけでなく、時間そのものを短縮するスピーディなプレイ感にもあります。
本作の戦闘では、コマンド選択型のバトルとリアルタイムに行うアクションバトルの2種類が用意されています。行動を選んで順に敵味方が動く「コマンドバトル」では、どうしても一定の時間はかかってしまいますよね。
そこでタイパに繋がるのが、プレイアブルキャラクターたちを直接操作し、移動に攻撃、回避をリアルタイムに行い、敵と戦えるシステムである「クイックバトル」。なんと、いつでもどこでも戦闘スタイルをコマンドバトルと切り替えることが可能です。


クイックバトルではコマンドの入力や敵の行動を待つ時間がないためゲームへの集中度が落ちず、また思考よりも反射で戦えるので、コマンド選択とはまた別種の爽快感を味わえます。
シナリオの要所で待ち構えるボスクラスの敵はコマンドバトル一択ですが、そこに辿り着くまでの戦いは、全てクイックバトルで片づけることが可能。それどころか、道中の敵はスルーもできるため、戦いそのものをキャンセルして突き進むこともできます。数多く行うことになる雑魚戦を素早く回避できる点でも、タイパの良さが光ります。

また、章ごとに行き来するエリアは決まっている上に、一瞬で移動できるファストトラベルが充実しているため、既に訪れたことがある場所への移動時間はほぼゼロ。街への移動も、各施設ごとに移動先を選ぶことができ、かゆいところに手が届くファストトラベルになっています。

そんなクイックバトルとファストトラベルだけでは物足りないという人には、「ハイスピードモード」の活用がオススメ!ゲーム全体が高速化し、移動、バトル、演出の全てが怒涛の速度で展開するという、タイパの向上がこれ以上ないほど高まる倍速モードです。もちろんクイックバトルも高速化するため、重めの攻撃を繰り出すキャラでも、非常に素早い攻撃が可能です。
しかも、ハイスピードモードでも声優陣によるボイスの速度だけはそのまま。つまり、物語の臨場感は失われず、時間効率だけを上げられるのです。キャラクターのアクションも高速化するため、動きの演出はやや忙しないものになりますが、ボイスには影響しないというきめ細やかさも嬉しいポイントのひとつと言えます。

ちなみに、ハイスピードモードはほぼ全ての場面において、ボタン操作でいつでも切り替え可能。ここはじっくり見たいと思った時は、手軽にモードを切り替えられます。
『空の軌跡 1st』は、ストーリーからバトルまでボリュームのある作りです。しかしクイックバトルにファストトラベル、ハイスピードモードといったシステム面のサポートが行き届いており、プレイヤーが省略したいと感じた時間は極力短くできます。
もちろん、こうした短縮要素を使う・使わないは個々人の自由。また、クイックバトルからコマンドバトルへの移行や、ハイスピードモードと通常の切り替えはシームレスなので、ストレスフリーで使えるのも見逃せない点でしょう。
ご紹介したクイックバトル、ハイスピードモード、ファストトラベル。これらタイパに繋がる要素は、全て『空の軌跡FC』にはなかった要素です!
◆『空の軌跡 the 1st』は、サブクエストが“体験の濃さ”を深める!

『空の軌跡 1st』のメインストーリーは、3D化とボイスによる演出の強化で、体験がより濃密なものとなりました。しかし、本作の物語やキャラクターの魅力を余すことなく味わうには、先述した「サブクエスト」の体験も欠かせません。
エステルとヨシュアは、この世界特有の「遊撃士(ブレイサー)」という仕事に就いています。遊撃士は、地域の困りごとへの対処や魔獣の退治、事件と呼べる規模の調査・解決なども請け負う者たちの総称で、人々の生活に寄り添う存在です。

ゲーム中、住人からの依頼を受けるという形で様々なサブクエストが発生。いずれも任意なので受注は自由ですが、報酬だけではなく満足感も得られるため、タイパを向上させるならむしろ体験した方が断然お得です。
メインストーリーと違って、サブクエストは短時間で解決。単なるおつかいではないので、それぞれで個別の短い物語が展開していきます。また、キャラクターの意外な側面なども語られるため、短くも濃厚な味わいを堪能できます。
◆サブクエストが、メインストーリーの理解を助ける側面も

本作の主人公の少女「エステル」は活発で裏表がなく、彼女と共に育った「ヨシュア」は冷静で観察眼もあり、合理的な判断ができる少年です。性格面はまったく異なる2人ですが、その違いはメインストーリーだけでなくサブクエストも知ることで、より深く理解できるようになるのです。
たとえば、メインストーリーの序盤で2人は農園を荒らす魔獣の退治を引き受け、その捕獲に成功します。そこでヨシュアは、魔獣を生かしておくと今後も被害が出ると考え、退治すべきと提案。しかし、命を奪う行為に抵抗を感じるエステルが反対したことで、農園の住民も防護柵などを強化するとして共存共栄の道を選びます。

この時ヨシュアは、自分は正しいわけではなく心が冷たいだけだと語りました。エステルと違って可哀想という気持ちが沸かないのだ、と……。この場面はまだ序盤なので、ヨシュアの発言が本当なのか、それとも自嘲を含んでいるのか、プレイヤーとしては判断に悩むところです。
しかし、その後受注できるサブクエスト「子猫の捜索」を体験すると、ヨシュアへの印象がまた変わります。この依頼は、エステルがひたすら目的の猫を追いかけて、あげく何度も逃げられてしまうというもの。

ようやく追い詰めたものの、それでも逃げ出しそうな猫の気配を察知したヨシュアは、「追い詰めすぎちゃだめだよ」と促し、「ごめんね、怖がらせちゃって」と笑顔を浮かべて猫に安堵感を与えます。

また、依頼主のイーダに引き渡す際「猫を見つけた時は常にイーダがいるところに向かっていたから、飼い主の元に帰る途中だったのでは」と告げるヨシュア。さらに「僕たちのせいで、逆に帰りが遅くなってしまったかも……」と申し訳なさそうに語ります。
ヨシュアが本当にただ合理的な判断を下すだけの人物なら、依頼と全く関係のない言葉は付け加えないでしょう。また、本当に心が壊れているなら、猫の警戒に気を配ることはせず、持ち前のスピードで捉えていたはず。

筆者がもし、この「子猫の捜索」を体験しなければ、ヨシュアに対する印象が変わっていたか、少なくともどんな人物かという判断を保留にしていたかもしれません。しかし、猫やイーダに見せた対応から、ヨシュアを序盤からより深く知ることができました。
それぞれの依頼は手早く済み、エピソードとしても短めながら、プレイヤーの体験としては濃厚なサブクエスト。こうした短い物語の数々も、『空の軌跡 1st』でたっぷりと味わえます。
◆物語やキャラの深掘りだけじゃない! 魅力あるサブクエストの数々


正直なところ、「子猫の捜索」だけでなく、ほかにも魅力的なサブクエストをたくさん紹介したいところです。しかし、オススメしたいサブクエストは枚挙に暇がないほどで、しかもネタバレは避けられません。そのため、プレイ時の楽しみを奪わない範囲で、ごく一部をピックアップし、どのように寄り道なのにタイパが良いのかということを軽くご紹介します。
主要キャラの深掘りといえば、特にお勧めなのが、仲間のひとり「ティータ」が両親に贈り物をするサブクエスト。彼女と行動を共にする時は深刻な事件が起こっている期間が長いため、このサブクエストはティータの人となりを知る貴重な機会となっています。


また「旅行者の説得」では、厄介な人物の要求を抑えるため、実直なエステルがあの手この手で説得する姿を拝める、彼女の性格を考えると非常に珍しいサブクエストです。ちなみに虚実を交えた説得は、ある人物を参考にしたとのこと。それが誰なのかは、実際にその目で確かめてみてください。
依頼はただ順番に求められた行動を起こすだけでなく、「臨時司書求む」や「燭台盗難事件」では謎を解く要素があり、プレイヤーのひらめきが問われる場面もあります。ただし、謎解きでもヒントは十分揃っており、リメイクならではの3D化した背景を観察することでも糸口が見えてくるのでご安心ください。


また、依頼ではなく現地で見つけるサブクエストもあり、代表的なのが「琥珀の塔の不審者」です。クエスト名にもなっているマップ「琥珀の塔」を見つけたら、こまめにチェックしておくと吉。
ちなみに、サブクエストが発生するとマップ上に緑のマークがつくため、注意していれば見落とさずに済みます。これも、オリジナル版にはなかった改善点です。

このほかにも、お金だけでなく料理のレシピが手に入る「食材の収集」や、『空の軌跡FC』ではクリアの有無が続編『空の軌跡SC』に少し影響する「ベアズクローの調査」など、サブクエストは報酬というゲーム内要素だけでなく、プレイヤーの楽しみ方まで多彩です。現時点では続編のリメイク化は全くの不明なものの、将来に備えてサブクエストを網羅しておくのも一興でしょう。
あくまで一例ですが、物語やキャラクターを深く知るサブクエストは、短くも濃密に楽しめるコンテンツのひとつ。タイパ重視なら、こちらも必ず押さえておきたいポイントです。
◆濃密な体験とシステムによる時短が『空の軌跡 the 1st』のタイパを支える

壮大なシリーズ展開のきっかけになった本作でのメインストーリーは、様々な展開が集約していく王道的な面白さがあり、多彩なサブクエストによってキャラクターや世界が深く掘り下げられていきます。
さらに、クイックバトルやハイスピードモードといった“自由選択による時短要素”が備わったことで、ゲーム体験をプレイヤー好みの“濃さ”で味わえる『空の軌跡 1st』。物語とシステムの相乗効果で、大作ながらタイパに優れた作品だったということを、クリアして改めて実感するばかりです。


本作を振り返っていると、他愛もない場面の数々も真っ先に思い浮かびます。
エステルとヨシュアの微笑ましいランチや、凄腕な「シェラザード」の人間味あふれる酒豪エピソード、音楽と食と酒、そして人をこよなく愛する「オリビエ」の振る舞いの数々などが、まるで自分もそこにいたかのように思い出せてしまうのです。


このほかにも、不器用な先輩遊撃士「アガット」、心優しくも凛とした「クローゼ」、大人に一歩踏み出した少女「ティータ」、飄々ながら頼もしい大先輩「ジン」といった、仲間になる面々との関わりは深く刻まれています。
加えて、道中度々遭遇するニュース雑誌の記者「ナイアル」&「ドロシー」の凸凹コンビぶりや、お嬢様然とした「ジョゼット」が見せたギャップある行動など、サブキャラクターとの関わりも記憶に残りました。


メインストーリーや印象深いエンディングは当然はっきりと覚えていますし、感慨もあります。それでもクリア後の今、ちょっとした合間に浮かんでくるのは、何気ない場面やささやかな会話ばかり。まるで自分も大事な旅の仲間に加わっていたかのような気分が、今もどこかに残っています。

もちろん筆者はプレイヤーであるため、エステルたちの冒険を見届ける立場に過ぎません。しかし彼女たちが知らずとも、みんなと一緒に旅をしたことを「私」はきっと忘れないでしょう。この気持ちを得た50時間は、筆者にとって価値のある、良質なタイムパフォーマンスに満ちたひとときでした。
『空の軌跡 1st』であなたを待つ物語が、筆者のように“忘れられない旅”になりますように。

さて、本稿を見て普段大作RPGにあまり手を出さないけれど、『空の軌跡 1st』で遊んでみたくなった方もいるのではないでしょうか。そんな未来の『空の軌跡』プレイヤー候補の方々には、ニンテンドースイッチ/PS5/Steamにて8月21日に配信された体験版をオススメします。
この体験版のプレイ可能範囲は、冒頭から序章終了まで。一通り駆け抜けるだけでも、4~5時間分は楽しめるボリュームです。今回取り上げたタイパの良さに繋がる要素を直接体験し、実感してから購入に踏み切ってみてください。
そしてニンテンドースイッチ/PS5のパッケージ版『空の軌跡 the 1st』では、ミニサントラや全ページ描き下ろしのフォトアルバム、『軌跡』シリーズの膨大な資料を400ページで綴った書籍などをセットにした限定版「ブレイサーBOX」も登場。いずれも予約受付中なので、ファルコムショップや取扱店、各ストアをチェックしておきましょう。

本作で待つ新たな旅の始まりを、その目でぜひお確かめください。大作RPG『空の軌跡 the 1st』は、ニンテンドースイッチ/PS5/Steam向けに2025年9月19日に発売予定です。
『空の軌跡 the 1st』公式サイトはコチラ!