9月25日より東京・幕張メッセで開催されているゲームの祭典、「東京ゲームショウ 2025」。カプコンブースではさまざまな注目タイトルが出展されており、新作SFハッキングアドベンチャー『プラグマタ』も体験可能です。
今回はTGS2025の開催に先駆け、ディレクターのチョウ・ヨンヒ氏をはじめ、プロデューサーの大山直人氏、エドソ・エドウィン氏へのインタビューを実施しました。作品のコンセプトやデザインなど、注目の要素が語られたその様子をお届けします。
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また、Game*Sparkでは今回のTGS版『プラグマタ』を事前に体験したプレイレポートなども掲載されていますので、あわせてご確認ください。
プラグマタ開発陣にインタビュー!作品のコンセプトや強化要素、ハッキングパズルの“難しさ”とは
ーー昨今のRPGのデザインはレベリングやスキルポイントでの強化が主流ですが、本作ではフィールドで拾えるアイテムを拠点で使って強化するスタイルになっています。こういったスタイルにした理由や狙いはありますか。
チョウ・ヨンヒ氏(以下、チョウ):初期の開発段階では、拠点で全ての装備を整えてステージに移動するというアイデアもありましたが、そうすると決まったものしかプレイしなくなってしまいます。武器やハッキング能力など、ランダムで毎回違う体験や戦略を与えるために、現在の形になりました。
大山直人氏(以下、大山):本作ではヒューとディアナ、ふたりの主人公が登場しますが、拠点となるシェルターはステージと違って、コミュニケーションや安らぎのための場所として対比させている意図があります。
ーーシェルター内でのコミュニケーションはバリエーションがたくさん用意されているのでしょうか。
大山:具体的な数などは申し上げられないのですが、いろいろなものを用意しているので楽しんでいただけると思います。

ーー2020年に最初のトレイラーが公開されましたが、そもそも本作の開発はどういったコンセプトからスタートしたのでしょうか。
チョウ:最初は「月が舞台」というコンセプトから始まりました。ゲームにとって重要な要素である“敵”という存在を考えた時に、クリーチャーやゴーストなどさまざまなアイデアも出てきました。そんななかでAIという方向性が決まり、そこからディアナやヒューという存在も生まれてきました。
ーー開発期間のなかでコンセプトに変化をくわえた点などはありますか。
チョウ:コンセプト自体は最初期から変わっていません。二人が相棒になって、ひとつのゲームプレイをするというコンセプトをずっと持っていました。
大山:ディアナがハッキングをして、ヒューがアクションをするという根底の部分は変わっていませんが、それをどうゲームプレイに落とし込むかという試行錯誤は数年続いてきました。ようやく、皆さんにお届けできるくらい面白いゲームシステムになったと思います。
ーー本作は“若い世代”が作っていることがアピールされていますが、この開発のアプローチでのプラスの成果と苦労した部分を教えてください。
大山:若い人たちのフレッシュなアイディアをもとにゲームを膨らませている部分はありますが、若手だけで構成されているわけではありません。『バイオハザード』シリーズの川田さんなど、実績のあるベテラン層のフォローやサポートも含まれています。
チョウ:若手の開発者の比率が多い、というのは実際そうですね。
川田 将央氏(以下、川田):カプコン30年目の人間がコメントさせていただきます。他のタイトルのコアメンバーは私と同世代の人間が多くいますが、『プラグマタ』のプロデューサー陣は若い部類に入るかと思います。
若手に足りないのは基本的に経験だけだと思っていて、能力は非常に高いスタッフで構成されています。私は遠くの方から「失敗しないかな…」と思いながら見ていますが、大きな失敗もなくここまでやれてきています。カプコンとしても、若手が上に上がっていくことを後押ししていく姿勢です。
ーーシェルター内のデザインについて、壁側には地球の風景が映っていましたが、どういった目的でこのようなデザインになっているのでしょうか。また、シェルター内はカスタマイズできるのでしょうか。
チョウ:コンセプトである月は白黒がメインの世界なので、CGで表現するとどうしても地味になってしまうのがビジュアル面での課題でした。そこでシェルターに地球の要素を取り入れ、カラフルで安心感のある空間にしたいと考えました。
完全なカスタマイズとまではいきませんが、プレイを通じてディアナとやりとりをする中で、背景が少し変化するといった要素はあります。

ーー月面基地のデザインは、「実際に作られたらこうなるだろう」という研究や考証のもとに作られているのでしょうか。
チョウ:NASAの月面基地計画などもリサーチしましたが、現実のものをゲームに持ち込むのは難しさもあります。3Dプリンターで建物を作る技術の研究が現実でも進んでおり、そういった部分の要素は取り入れています。

ーー3Dプリンターといえば、シェルターでは武器を複製して持ち出すことができました。本作にはたくさんの武器が用意されているのでしょうか。
大山:各ステージでいろいろ新しい遊びを楽しめるようにしているので、ご期待ください。エンディングまで楽しめるようなボリューム感です。
チョウ:詳しくはお伝えできませんが、ただ「撃って倒す」だけではなく、銃以外のものも用意されていますので、そのあたりも楽しみにしていただけたらと思います。

ーー今回の試遊では、前回のものより敵の攻撃が痛くなっているように感じました。本作では戦闘やハッキング、回避など複雑な要素が絡み合っていますが、戦闘の設計やバランスの調整で意識しているポイントはありますか。
チョウ:ディアナのハッキング能力とヒューの銃撃アクション、この二つのバランスを維持することを特に意識してきました。どちらかに偏りすぎないよう調整し、状況に応じて使い分けられる今はとても良いバランスになっていると思います。
大山:難易度としては、コアゲーマーにも歯ごたえを感じてもらいつつ、カジュアルな方にも楽しんでもらいたいと考えています。以前の試遊ではカジュアル寄りのライトなプレイフィールになっていましたが、今回(TGS)は歯ごたえを感じられるはずです。
チョウ:ゲームが進むにつれてカスタマイズの選択肢も増えていき、ハッキングを極めればハッキングだけで敵を倒せるようになるなど、プレイヤーに合わせた戦略が取れるようになります。

ーーディレクターのチョウさんはアーティスト出身とのことですが、アーティストからディレクターになった経緯や、それがどのようにゲームに活かされたのかを教えてください。
チョウ:モデルアーティストやコンセプトアーティスト、アートディレクターなどを兼任してきて、最終的にはディレクターになりました。アーティストはあくまでも自分がゲームを作る手段だと考えていて、私はイラストを描くことよりも、そこからゲームの想像をするのがすごく好きです。
『バイオ3』のリメイクでアートディレクターを務めた際には、ゲームの遊びの部分や演出など色々な部分に口を出すようになって、そこからプラグマタのディレクターに繋がったという感じです。
大山:開発の初期にはチョウさんが漫画で本作のイメージを大量に描いていて、それをもとに進めるという時期もありました。このあたりは、アートディレクター出身ならではのユニークなやり方だと思いました。
ーーハッキングのパズル要素とバトルのバランス調整は難しそうですが、苦労されたところや工夫されたところを教えてください。
チョウ:難易度調整は非常に苦労しました。開発チームは毎日プレイしながら開発しているので、パズルに慣れて上手くなりすぎてしまい、内部での感覚と実際に触れたプレイヤーの間にギャップがありました。本作は簡単になりすぎず、挑戦したくなるような“ピリ辛”の難易度を目指して調整しています。
大山:強化要素やプレイを通じて、プレイヤーがパズルに慣れて成長を感じられるように工夫を詰め込んでいます。
川田:Summer Game Festで初の試遊を出展しましたが、その時の難易度は開発からしてみると「こんなに下げて大丈夫だろうか」と思えるほどでした。しかし、試遊が大絶賛されたことで、開発スタッフはかなりショックを受けていました。現在はカプコンの品質管理部と密に連携し、客観的な視点での調整を行っています。

ーー戦闘がうまくいかないときは、シェルターで強化などをすれば突破できるようなバランスを目指しているのでしょうか。
チョウ:そうですね。面白いことに、『プラグマタ』では自分も気付かないうちに、スキルが上達していきます。開発でも新しく入ってきたメンバーに一度プレイさせますが、「この難易度で大丈夫ですか?」とよく聞かれます。そう言っていた人が一ヶ月くらいすると、「こんな簡単でいいんですか?」と言うようになります。慣れていけば、誰でもプレイできるようになると思っています。
大山:チェックの際には“初見のリアクション”を収集しています。初見の人を探し集めるのは難しいですが、開発チームとの感覚のギャップが生まれないようにするために、初見の方のフィードバックを重要視しています。
ーー個人的にヒューの宇宙服のデザインや、メカのデザインがすごくかっこいいと感じました。本作の演出やデザイン面で、注目してもらいたいポイントはどこですか。
チョウ:自分はSF作品のファンですが、「スター・ウォーズ」のように遠い未来のものもあれば、「攻殻機動隊」のように近未来が舞台のもの、「ガンダム」のような作品など、一口に「SF」といっても色々な種類があると思っています。
そんななかでも、自分の好きな“ジャパニメーション”のような、かっこいいSFの要素を取り入れたゲーム作品はあまりないことに気付きました。『プラグマタ』ではそういったジャパニメーション要素のある演出やデザインを多く採用しています。
大山:ヒューやメカデザインのディテールも、2020年に発表されたトレイラーのものよりかなり細かくなっています。ゲームシステムだけでなく、5年の開発期間の間にビジュアル面でも進化しています。


ーー今回の試遊では、強化素材が取れそうで取れない場所に配置されているなど、探索していく楽しさがありました。探索やレベルデザインについてのこだわりはありますか。
大山:先程、「ヒューとディアナの協力」というコンセプトの話がありましたが、これはアクションだけでなく探索面でも表現されています。施設へのハッキングや、ヒューのスラスターを使った移動など、二人が協力して進めていく要素を重視しています。ストーリー全編を通して、この二人の関係性を中心に据えた設計になっています。
チョウ:戦闘だけでなく、隠し部屋や謎解き要素なども用意していて、プレイヤーが飽きないように色々なテイストのレベルデザインを心がけています。

ーー本日はありがとうございました。
『プラグマタ』は、2026年にPC(Steam)/PS5/Xbox Series X|S向けに発売予定です。