バンダイナムコエンターテインメントより、育成RPG『デジモンストーリー タイムストレンジャー(以下、タイムストレンジャー)』が10月2日に発売されました。
本作は、2006年より続く「デジタルモンスター(デジモン)」のRPGシリーズ最新作。前作『デジモンストーリー サイバースルゥース(以下、サイバースルゥース)』と、その外伝作品『デジモンストーリー サイバースルゥース ハッカーズメモリー(以下、ハッカーズメモリー)』は、オカルト×SFというテーマで育成パートだけではなく、ストーリー面でも高い人気を誇るRPGでした。
今回は『ハッカーズメモリー』より、約8年ぶりの新作となる本作について「デジモン」ファンで、『デジモンストーリー』シリーズを全作プレイしている筆者がプレイレポをお届けします。
◆8年前にタイムスリップ!?先が気になるストーリーが展開
本作の主人公は、超常現象の調査・解決を専門とした秘密組織“ADAMAS”のエージェント「結城ダン/結城カナン」。それぞれタイプ(性別)はいつでも変更可能で、選ばなかったタイプは、オペレーターとして主人公を随時サポートしてくれます。

頻発するアノマリー事象(怪奇現象)の調査として、主人公が新宿都庁の前に建設された「きぼうの壁」に潜入しようとしていると、突如救難信号の報せが届きます。奥へ進んでいくと、助けを求めていた少女・御園イノリと邂逅。初対面のはずにも関わらず主人公のことを知っているイノリ。そのうえ、デジヴァイスには彼女の連絡先も登録されていたことが発覚します。


「きぼうの壁」を抜けた先では、都庁が崩壊し、多数のデジモンが徘徊しているなど殺伐とした様相。イノリに導かれるまま屋上に向かうと、謎の巨大生物同士の戦いによって発生した爆発に巻き込まれ、気が付くと主人公は8年前にタイムスリップしてしまいます。

その後はまだ主人公のことを知らないイノリが存在したり、イノリがパートナーデジモン「アイギオモン」と出会ったりという出来事が起きる中、本来いた時間軸のオペレーターから連絡が入ります。もとの時間では、新宿を中心に世界が崩壊する「新宿インフェルノ」が発生しまったそう。過去における行動で一連の現象の謎を解き明かしてほしいと頼まれた主人公は、現実世界とデジタルワールドでの冒険を通して、8年後に起きる終末を回避する術を探します。

このように、本作では開幕から状況がダイナミックに動くのが特徴で、序盤から「都庁の屋上にいた巨大な生物らしきものはなにか」「なぜ主人公はタイムスリップしたのか」「イノリと主人公の関係性とは」などの謎が押し寄せてきて「先が気になる!」とプレイする手が止まりません。


主人公はプレイヤーの分身という立ち位置で、物語の動線としてはむしろイノリとアイギオモンの絆と成長に焦点が当てられています。
保護者的な立ち位置が重視されており、主人公は物語を導くというよりも、イノリとアイギオモンの関係を見届け、時に支える存在として描かれています。主人公にヒーロー的な活躍やドラマチックな自己主張を期待すると拍子抜けするかもしれませんが、逆に言えば他者の成長を通して世界を見つめる物語として味わい深い構成になっています。

そして『サイバースルゥース』や『ハッカーズメモリー』では、デジモンを絡めながら現実世界中心でストーリーが描かれていましたが、本作では序盤以降、異世界「デジタルワールド・イリアス」での冒険が主となります。そのため前作や前々作のような「東京シミュレーター・観光」的な側面を期待すると、少し肩透かしを食らうかもしれません(新宿や秋葉原などは見事に再現されています)。



ただその分、色彩豊かな拠点「セントラルタウン」を軸として、機械仕掛けの「ファクトリアル・エリア」、辺り一面の海に囲まれた「アビス・エリア」など、現実ではありえない舞台を踏破できます。そしてこれまであまり「デジモン」シリーズで明かされてこなかった、「オリンポス十二神族」と「タイタン族」の対立にも触れることができ、ファンとしてはやりごたえがありました。
◆種族と相性が鍵の戦略的コマンドバトル
戦闘は敵味方あわせて素早さ順に行動する、オーソドックスなタイムライン式のターン制コマンドバトルです。UIも『サイバースルゥース』を継承した形ですが、最大5倍速までスピードを変えられるように。また本作はシンボルエンカウトが採用されており、マップに出現するデジモンに接触することでバトルを始められました。

またフィールドで味方デジモンに指示を出して、オブジェクトや敵に攻撃する「デジアタック」を使うことで、先行攻撃も可能です。オートモードがあったり、主人公自身が強力な攻撃やバフ・デバフを発動する「クロスアーツ」があったりするため、雑魚戦はサクサクと終えられます。
一般的な「デジモン」という“子供向け”なイメージから、バトル難易度は抑えられていると考える方も多いかもしれません。ただ育成にハマって本筋から逸れるように“育てすぎた”場合を除いて、ボス戦は属性・相性を考慮しないと中々に歯ごたえのある仕上がりです(筆者はノーマルに値する難易度「バランス」でプレイ)。

一部のボスは「スペシャルスキル」という強力なチャージ技を使用し、それと同時にチャージ中は「ブレイクポイント」が出現します。そこに集中して攻撃を加えると「チャージブレイク」が発生し、スペシャルスキルをキャンセルしたり敵のバフ効果を消去したりと「ピンチがチャンスになる」と言えるシステムが実装されています。これは前作の終盤で顕著だった“とにかく強力なスキルを繰り返す”というマンネリ構造を防ぎやすく、長期化しやすいボス戦の刺激として機能していました。
また各デジモンが持つ種族には相性があり、ワクチンはウイルスに強く、ウイルスはデータに強いというように、3すくみの関係になっています(3種族に当てはまらないデジモンもいます)。
得意な相手であれば攻撃効果が常に2倍となり、一方で苦手な相手なら常時半減されるなど、種族間の補正が強めに設定されています。さらに、攻撃属性自体にも相性が存在しており、種族×攻撃の相性補正が攻撃結果として現れます。

そのためお気に入りデジモンばかりを育てるのではなく、さまざまな状況に対応できるようにまんべんなく育成したほうがよいでしょう。なかには進化させたばかりはそうではなくても、育てているうちに愛着が湧くこともあると思います。
また戦闘後、操作せずに放置するだけでHPとSPが回復する“リジェネレーションモード”が発動します。ダンジョンでもSP消費を気にせずスキルを使えるのが快適でした。

◆デジモン育成は頭を悩ます時間が楽しい
「デジモン」といえば、育成要素も大きな魅力のひとつ。フィールド上で狙っているデジモンをたくさん倒すと、そのデジモンのスキャン率が溜まっていきます。これを100%以上にした上で“コンバート”することで入手可能となるのです。
弱らせて状態異常にして…といった捕獲の手段は必要なく、とにかく敵を倒せばよいのがシンプルで分かりやすいポイントです。

同じく育成系RPGでも、たとえば『ポケモン』は進化すると元に戻すことはできませんが、デジモンはあくまでデジタル生命体なので、いつでも“退化”することが可能です。むしろ進化と退化を繰り返してステータスと才能を底上げしながら、進化ルートを開拓していくのが醍醐味と言えるでしょう。

進化条件は基本的に、「攻撃力が〇〇以上」「素早さが〇〇以上」と言ったステータスを参照して行われます。ただし漫然にレベルアップをさせるだけでは、指定ステータスには到底届かないことも……。その場合はデジファームと呼ばれる施設で特訓させることで、直接スタータスを伸ばしたり特定のステータスが上がりやすい性格に変えたりすることで対処します。この進化ルートと睨めっこしながら、育成を繰り返して新たなデジモンを発見するのが本当に楽しくワクワクします。
また「デジモン」シリーズには「成熟期」「完全体」「究極体」という進化段階があります。ただ本作ではこれらの進化条件に「エージェントランク〇以上」という制限が設けられており、ストーリー進行にあわせて進化が解放されます。
エージェントランクはメインストーリーや、寄り道クエスト「サブミッション」をこなすことで手に入る「アノマリーポイント」を使用して、主人公の能力を強化する「エージェントスキル」を獲得したときの累計数で上昇します。

そのため序盤から「究極体」に進化して無双することは出来ません。個人的にはストーリーの盛り上がりと戦力の高まりが同期することで、シナリオへの高い没入感が生まれていると感じました。
ただ本作で一点だけ育成面で残念に思う点がありました。それは「デジファーム」の利便性の悪さです。デジファームでは特訓をおこない進化に必要なステータスを上昇させていきますが、なんとデジファーム内からは肝心の進化画面が開けません。そのため「進化まであとどれくらいスタータスが必要だっけ?」と思ったら、毎回デジファームから退出し、システム画面を開かなければならない手間があります。

また1体だけデジモンをデジファームに預けることも少ないため、ゲーム中何回もその繰り返しを続けているとややストレスを感じた場面もありました。ただこれはアップデートで対応できる範囲だと考えますし、あくまで記事執筆時点での評価とさせてください。
『ハッカーズメモリー』から8年ぶりの新作となった『タイムストレンジャー』は、シリーズが積み上げてきた育成や戦略性をしっかりと受け継いだ作品でした。序盤から世界の崩壊、タイムスリップ、謎の少女イノリとの出会いなど、次々と展開が動いていく構成はスピード感があり、気づけば“続きが気になる”感覚に引き込まれます。
バトルや育成面もよく練られており、属性や種族の相性を踏まえた戦略的なコマンドバトルは手応え十分。進化・退化を繰り返して理想のデジモンを育て上げる過程は、時間を忘れてのめり込む楽しさがありました。デジファームまわりの操作性など、改善を望む部分もありますが、それを上回る“育成する喜び”が確かに存在します。
そして何より待望の『デジモンストーリー』シリーズ最新作として、今後の展開への大きな期待を抱かせてくれる仕上がりでした。新たな世界観やキャラクターを導入しながらも、パートナーとの絆という「デジモン」らしさの原点を描き出しており、シリーズの魅力が健在であることを強く感じます。
また「デジモン」のファン向けゲームというだけでは無く、一本のJRPGとしても面白い出来なので、本作から「デジモン」に触れるのもおすすめです。ここからさらに広がっていく作品の未来が、今から楽しみになる一作でした。
『デジモンストーリー タイムストレンジャー』はPlayStation5/Xbox Series X|S/Steam向けに販売中。価格は通常版が8,910円(税込)です。そのほかのエディションについて、詳しくは公式サイトをご確認ください。