創刊40周年を迎えた『週刊ファミ通』と、45周年を迎える弊社発行の『アニメディア』。1980年代に誕生し、ファンとともに紙の時代、そしてデジタルの時代を駆け抜けてきた二つのエンタメ誌が、節目の年に初めて相対した。
対談に登場するのは、『週刊ファミ通』編集長・嵯峨寛子と、『アニメディア』編集長・加藤克明(バカタール加藤)。ゲームとアニメ、それぞれの現場を担う二人が、雑誌づくりの舞台裏や、紙とWebの両面で変化する編集の仕事、さらに“好き”を原動力として続けることの難しさと面白さを語り合った。
情報が瞬時に拡散する現代においても、なぜ“雑誌”を続けるのか。変わりゆく仕事の形、読者との関係、そして“好き”で作り続けることの意味を探る。
[撮影:中村ユタカ]
◆編集者としての原点 “憧れの先輩”と始まる物語

加藤 今日はお互いの周年を記念して、こうしてお話しできるのを本当に楽しみにしていました。まずは嵯峨さんが編集者として歩まれてきたルーツを伺ってもよいですか。
嵯峨 私の編集者としての始まりは、当時ファミ通を発行していたエンターブレイン新卒2年目に長田英樹さん(『週刊ファミ通』5代目編集長)時代の『ファミ通DX』に配属されたことですね。当時は入社1年目に営業や広告を経験し、2年目にネット系の仕事に就くことが多かったんです。
加藤 つまり最初の上司が長田さん、ということですね。
嵯峨 はい。長田さんは兄貴肌で、チームをまとめる人でした。ご自宅で鍋会をしたり、フットサルに誘ってくださったり。2009年に長田さんが『週刊ファミ通』編集長になられた際、私も一緒に異動しました。
加藤 ちょうど私の退任と入れ替わりですね。でも私はその時「嵯峨さんがいずれ編集長になる」と思っていました。実際に6年以上務められていますよね。
嵯峨 そうなんです。2020年からなので、もう6年になりますね。
◆紙の黄金期と記念号の熱 700号が教えてくれた雑誌の力

加藤 僕は2000年に『ファミ通64+』(1999年創刊)の四代目編集長になったんですが、1年後に浜村(弘一 『週刊ファミ通』三代目編集長)さんから「『週刊ファミ通』の編集長代理を兼任して」と言われたんです。当時は突然の話で、とにかく驚きましたね。「やる人がいないならしょうがないかな」と思って引き受けましたが、あくまでも1年間は「編集長代理」というポジションで、本当に週刊ファミ通の編集長を任せても大丈夫かどうか、お試し期間があったんですよね。
そんなタイミングで、翌年のゴールディンウィークの時期に発売する合併号がちょうど通巻700号というキリがいい号だとわかって、これは一発やってやるか、というスイッチが入ったんでしょうね。今回のファミ通40周年記念号とほぼ同じ、400ページ超で平綴じで、付録も3つ付けるというスペシャル、というかむちゃくちゃな本を企画しました。改めてあの頃を思い出すと、若気の至りもありますが、勢いと熱気だけで走り抜けていた感じです。

嵯峨 あの700号、インパクトありましたよね。
加藤 いやもう原価が大変だったんですよ。当時の『週刊ファミ通』がたしか定価330円で、原価率が20~30%くらい。700号は付録が3つも付いていたので40%を超えていました。売れなかったら即赤字です。そこでやむなく価格は上げましたが、本当に綱渡りでした。
結果、これがほぼ完売して無事に編集長を続けられたわけです(笑)。でも、そのあと「加藤、次の周年号は?」「次の記念号いつだ?」と経営陣に定期的に聞かれるようになりましたね。
嵯峨 やっぱり周年号って特別ですよね。私は今まさにそれに追われてます(笑)。来年の2000号を考える前に、ちゃんと40周年を乗り切らないと、と必死です。
加藤 40周年を4号連続で展開ってすごいですよね。
嵯峨 完全に若気の至りでした(笑)。なんで1号で終わらせなかったのかと思います(笑)。
加藤 ゲームメーカーさんの「お祝いビジュアル」が140ページ超なのはびっくりしました。僕が副編集長の頃、普通号が広告で100ページを超えたことがあって、ホチキスが通らなくなって改良したこともあったけど、それでも140ページはなかったです。

嵯峨 本当もう「40年に一度の必殺技」みたいな感じでしたね。編集長や部下が1社1社ご挨拶に伺って、「40周年なんです」「リアルイベントもあるんです」とお願いして回る。週刊誌でここまで時間と労力をかける企画はなかなかありません。
◆変わる見出し、変わらない編集魂 紙とWebの境界線

加藤 嵯峨さんは入社何年で編集長になったんですか?
嵯峨 2007年4月入社で、2020年4月に編集長を拝命したので13年目です。35歳のときでした。
加藤 僕も35歳でしたよ。同じ年齢じゃないですか。一番体力も気力もある頃ですよね。6年間編集長を続けてこられて、実感する一番の変化はなんですか。
嵯峨 そうですね……一言で言えば“情報の見せ方”の変化です。紙の誌面では、雰囲気や世界観で読ませることが正解でした。たとえば「闇に堕ちた英雄の行方はーー」のように、意味よりも“かっこよさ”や“語感”で読者を引き込む。でもWebの見出しでそれをやると、誰もクリックしてくれません。タイトルに「何が分かる記事か」が明確に出ていないと、興味を持ってもらえないんです。
加藤 見出しがキモですからね。
嵯峨 それにコロナ禍で編集長になったので、最初はリモート対応が大変でした。今も在宅の人が多いですが、紙と画面で見る印象の違いにはいまだに悩みます。
加藤 株式会社イードはリモート推奨なんですが、最近は出社に戻す流れです。ちなみに、アニメディア編集部は校了の数日間は全員出社して、全ページ原寸で刷って確認しています。アニメ誌は色が命ですから。
嵯峨 『週刊ファミ通』編集部では、色校を出す機会が減りましたね。現在は主に表紙のみです。
加藤 『アニメディア』では、ピンナップやポスターなど付録系のページはすべて色校を出しています。メーカーさんやスタジオから「肌の色味をもう少し直してほしい」といった細かな要望をいただくことも多く、そうした調整はファミ通時代よりもずっとシビアかもしれませんね。
加藤 『週刊ファミ通』で6年間編集長を務めて、なにか大きく変わったことはありますか?
嵯峨 私が就任する前の2018年頃から、速報は『ファミ通.com』に任せ、雑誌は特集中心に。今は52ページ規模の特集をすることもあります。
加藤 僕の時代は16~32ページが普通でしたから、変わりましたね。

嵯峨 “特集で読ませる雑誌”に振り切った感じですね。……でも『アニメディア』さんも45周年はすごい。うちより5年長い。
加藤 その「5年」というのは、おそらくエンタメ市場全体で見たときの、アニメとゲームの市場の“ズレ”なんですよね。アニメのほうが先に『機動戦士ガンダムシリーズ』のような作品が市場を広げて、そのあとにゲームの『スーパーマリオシリーズ』や『ドラゴンクエストシリーズ』が登場してきた。長い歴史の中で、ゲーム雑誌は、ほとんどファミ通だけ、って感じになっていますが、アニメ誌はまだまだ老舗御三家のアニメージュやニュータイプも残っていて、アニメ誌はがんばってるな、と思います。KADOKAWAが発行するアニメ誌『月刊ニュータイプ』がやっぱり強くて、アニメ誌の“ファミ通ポジション”ですよね。
嵯峨 ただ『月刊ニュータイプ』には電子版がない。それはどうなのかなと。後になって「読みたい」と思ったとき困るじゃないですか。
加藤 いや、逆に「紙でしか読めない価値」がを重視しているのかな?と。ファミ通は電子版を出してますよね?
嵯峨 ええ。比率はそれほどでもないけど、毎週安定して売れています。なくなったら困りますね。
◆“好き”が現場を動かす 小さな編集部に宿る熱量

加藤 僕は『ファミ通64+』のとき、「雑誌はチームの熱でできる」と学びました。ただ人を集めてもダメで、みんなが自分の“好き”を出せる環境をつくることが大事。『アニメディア』もそういう編集部です。
嵯峨 うちもそうですね。ゲームの数が多いから、1人では無理。みんなの得意ジャンルや“推し”を持ち寄って作る感じです。
加藤 やっぱり「好きなやつが集まってる」が一番強い。それは今も昔も変わりませんね。
嵯峨 これ(アニメディア 2026年7月号)も、『超かぐや姫!』が好きなスタッフが「大特集しましょう!」って感じで進んだんですか?

加藤 基本的にはそうなんですけど、アニメ誌の場合は、結構博打的な要素が強くて、けっこう早い段階で描き下ろしの版権イラストを発注するんですよ。アニメの場合、「この作品でこのキャラ、このシチュエーションの絵が最高!」というオリジナルのビジュアルが一番の武器になるので。
でも発注時期は放送や配信のかなり前だから、その作品やキャラクターが本当にブレイクするかはわからないんです。だから“ファンだから載せる”というよりも、「この作品が来るのでは?」とスタッフの誰かが推して信じる感じですね。特に『超かぐや姫!』はNetflix作品だったので、判断が難しかった。でも結果的にはその後、劇場でも公開され大ヒットして本当にやってよかったなという感じです。
嵯峨 『週刊ファミ通』も「きっと面白いだろう」と予測して作品を表紙にしますが、アニメほどの“賭け感”は少ないかも。本当に先を読む力が必要ですよね。
加藤 そうなんです。でも、みんなで意見を出し合って、「これいいんじゃない?」と気軽に言える雰囲気が大事だな、と思います。
嵯峨 言いやすい環境と、ちゃんと企画が通る体制ですね。
加藤 『アニメディア』編集部は5人しかいないので、上下関係というより横並びのチームで「加藤はアニメあまり詳しくないから、逆に教えてあげなきゃ」くらいのノリで、みんなが意見を出してくれる。編集長がいちばん詳しくないから、逆にうまくいってるのかもしれません。今の『週刊ファミ通』はどうですか?
嵯峨 そうですね。スクウェア・エニックスさんはこの人、バンダイナムコエンターテインメントさんはこの人、といったメーカー担当があります。そこに各編集者の個性、VTuber好きとか、女性向けキャラに詳しいとかが加わる感じです。
加藤 メーカー担当は必須ですよね。それが『週刊ファミ通』が生き残っている理由のひとつだと思います。昔は「毎週必ずメーカーチェックをしてスケジュール表に記入する」というルールがあって、各自10社ほど電話で情報を取っていました。サボると「何やってる!」って怒られる(笑)。チェック先は300社くらいあって大変でしたけど、あれが命綱だったと思います。
◆デジタル化と進化する制作現場

加藤 当時、僕が『週刊ファミ通』に入った頃はPCが3人に1台くらいしか支給されてなかったんですよ。夜中に偉い人が帰ったあと、「今のうちに使わせてもらって原稿書こう」なんてこともありました。手書き原稿もまだまだ多かったですね。
嵯峨 今はすっかりデジタル化して、全部データとソフト上で完結します。便利になりましたけど、やっぱり手書きで入れられた赤字に込められた“気持ち”までは、文書ソフトのコメントでは伝わりにくいんですよね。……まぁ、ちょっと前時代的な意見かもしれませんけど。
加藤 わかります。あの“赤入れ”って、単なる修正じゃなくて、ちょっとした温度がありましたよね。ちなみに、今の『週刊ファミ通』には副編集長は何人いるんですか?
嵯峨 2人です。ただ、以前のような2チーム交代制はなくなりました。今は毎週みんなで校了する形です。定例会議も隔週くらいですね。
加藤 なるほど。それ、多分僕の時代にプロジェクト制に変えた流れですね。2チーム制の弊害があって隔週で載りが違う、なんてこともありました。だから「媒体間の垣根を越えて一体で動こう」と提案して、攻略本も含めて一つのプロジェクトチームで全部作る体制にしたんですよ。Webとも連動して。その上でリーダーシップを発揮できる人は社員登用する仕組みも同時に取り入れました。
嵯峨 そうだったんですね。まさに今の体制の原型だと思います。
加藤 校正はどんな感じでやってるんですか?
嵯峨 基本はテキスト原稿を文書ソフトで作って、チェックもソフト上で赤を入れる方式です。Googleドキュメントを使うこともあります。
加藤 『アニメディア』編集部では、校正は今ほぼPDFです。その前にラフやレイアウトを確認しておいて、組み上がった状態で赤字を入れています。
嵯峨 えっ、組み上がったところから赤字を? 直すの大変じゃないですか?
加藤 レイアウトやデザイン、コンセプトなどはラフの段階で確認しているので、そこまで大変じゃないですね。その前に校正も入っています。ただ、「この画面カット小さすぎない?」みたいな赤字を、紙に出力したPDFに書き込んだりもしていて。いわゆる“編集部らしい作業”は、うちもまだちゃんと残っていますよ。
◆アニメとゲーム、構造の違いと共通する信頼関係

嵯峨 ちなみに、『週刊ファミ通』では長年「メーカー定例会議」というものをやっているんですが、アニメスタジオさんともそういう定例ミーティングのようなものってあるんですか?
加藤 それがアニメの難しいところで……スタジオと制作委員会が別で、宣伝もまた別というケースが多いんです。だから都度、「今回はここが窓口」という形になる。『週刊ファミ通』のようにメーカーさんと定例でやれる関係性だとお互い気心が知れて良いんですが、アニメではなかなか難しいんですよね。
嵯峨 確かに、ゲーム業界は窓口になる方が比較的固定してますもんね。
加藤 そうなんです。ただ、PR担当や宣伝担当とは長く付き合っていれば“阿吽の呼吸”みたいなものができてきますし、監督や作画監督、脚本家などのクリエイターと何十年も取材を続けているので、そういう意味での信頼関係はあります。だから「絆が深まったからこそ聞ける話」もたくさんありますね。
嵯峨 なるほど。同じ“コンテンツを作る人たち”という点では通じる部分がありますね。
加藤 そうですね。違うようで似ていたり、似ているようで全然違ったりします。業界的に見ると、ゲームは基本的にデジタル中心の仕事ですが、アニメ業界は意外なほどアナログが残っている。古くからの慣習みたいなものも多くて、ちょっと昔っぽいところがあるんですよね。それには驚きました。一方で、3D化や独立系クリエイターの登場など、新しい風が吹きつつある感じもしています。
嵯峨 最近は株式会社トムス・エンタテインメントさんのように、アニメ制作現場を改善していこうという流れもある。お給料を上げるとか、クリエイターさんの待遇改善の機運が高まっているという話もよく聞きます。
加藤 おっしゃる通りで、アニメ業界ではクリエイターの立場が上がってきました。世界的に市場が広がった結果、作画スタッフを押さえるだけでもお金がかかる。版権イラスト代もどんどん上がっていますね。昔の以前の『アニメディア』は、どちらかと言うと“倹約編集部”で、とにかく安く発注して、金額が折り合わない場合はあきらめる、という感じだったんですが、ここ2,3年だけでも相場がかなり上がってまして。このままの流れだと、描いてもらえる作品が減っていくことになるので、版権イラストを雑誌以外にも活用しよう、ということで、アニメディアのオリジナルグッズを販売するアニメディア公式オンラインストアを始めました。そのあたりの作業は手探りでやってますが、本当に“月刊誌始めた頃に戻った”ような、手探りの日々ですよ。
嵯峨 まさに現場のリアルですね。グッズ制作まで編集長が手掛けるのはすごいです。
加藤 少人数の編集部なので、しょうがないかな、と(笑)。結局“自分たちで作って届ける”っていう原点に戻ってる気がします。
◆“観る”から“参加する”へ 広がり続けるエンタメの形

加藤 ところで嵯峨さんは、ゲーム好きで『ファミ通』を志望して入社されたというお話でしたけど、アニメも観たりしますか?
嵯峨 観てますよ! 『アニメディア』の皆さんほどじゃないですけど。人生で最初にハマったのは『新機動戦記ガンダムW』ですね。小学生の頃、イケメン5人のガンダムにどハマりして。当時はトレーズ・クシュリナーダの思想なんてまったく理解できていなかったけど(笑)、今でもBlu-rayを買ったり、「『新機動戦記ガンダムW & Endless Waltz』30周年オフィシャルブック」を購入したりしています。
『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』や『機動戦士ガンダム 水星の魔女』、『機動戦士ガンダムSEED』も観ていますが、やっぱり幼少期の思い出補正もあって『ガンダムW』が一番ですね。
加藤 アニメ誌的には『ガンダム』シリーズはもちろん大人気で、すごく引きが強いですよね。どれも外せない作品なのですが、アニメディア読者には『SEED』がとくに人気が高いようです。
嵯峨 そうですね。『Gundam GQuuuuuuX』は面白かったけれど、キャラ人気という意味では『ガンダムSEED』ほどは強くなかった印象です。みんな毎週お祭りのように観て楽しんではいましたけど。
加藤 本当によくご存知で(笑)。最近のアニメは、能動的に体験するというより、流れの中で「みんなが知ってる」で終わってしまう傾向もありますよね。いわば「共有感」はあるけれど、“爪痕”が残りにくい。そこにどう深みを持たせるかは、いま本当に悩みどころです。
嵯峨 あと、『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』ですね。うちの若いスタッフもすごくハマっていて、多分『アニメディア』を買ったファンもいると思います。
加藤 おお、それはうれしいです。『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』は、自分もハマりました。じつは、今前述のアニメディア公式オンラインストアでグッズも販売しました。
嵯峨 『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』は、『少年エースplus』でコミカライズを連載してたりもするんですよ。
加藤 さすがKADOKAWA……全部押さえてますね(笑)。KADOKAWAグループには勝てないなあ(笑)。
嵯峨 YouTubeで全話観られるのに、劇場版がヒットしたのはすごいですよね。私も観に行きました。なんというか、お祭りのように「観なきゃ」と思わせる空気があって。『超かぐや姫!』のときも同じような“行かなきゃ感”がありました。
加藤 劇場で観るという行為自体が、今ではひとつの“イベント化”しているんでしょうね。劇場に行く人は明確な動機があって、「お金を払って応援したい」という気持ちがチケット代に現れている。しかも劇場ではグッズも販売され、入場特典も配布される。そうした“参加するエンタメ”としての要素が、今の観客ニーズにすごく合っている気がします。
◆ “遊ぶ”が生む体験の深さ ゲームの本質を語る

加藤 エンタメという意味でいえば、今は本当にいろいろな楽しみ方がありますよね。アニメや映画、音楽、舞台、配信番組など、その中で「ゲーム」はどういう存在だと思いますか?
嵯峨 プレイヤーとして“自分が物語に介入できる”ぶん、ハマったときの感情の深さは他のエンタメとは比べものにならないと感じています。一方で、その「自分から遊ぶ」という能動性がハードルにもなっていて、「アニメは観るけどゲームはやらない」という方がまだ多いんですよね。
もちろんNintendo Switchの普及で間口は広まりましたし、ゲーム実況文化のおかげでインディーゲームを気軽に知る機会も増えました。けれど、実際に自分の手で“遊ぶ”人はまだ少数派で、面白さを伝える難しさはいまも感じています。
加藤 最近は「ゲームやります」じゃなくて「ゲーム好きです」と言う人が増えていますよね。実際にはあまりプレイせず、実況や配信を観て満足している層が結構多くなった。ある意味、ゲームもアニメのような“観るエンタメ”になってきているのかもしれません。
嵯峨 そうですね。実況で広く知ってもらえるのはもちろん良いことですし、グッズを買ってくれたり、ファン層が広がったりする点では業界にとってもプラスです。でも、できれば“自分の手で遊んでほしい”という気持ちも強いです。能動的に関わったときにこそ生まれる感情の動き、それを体験してほしいですね。
加藤 プレイヤーとして実際に手を動かすことで生まれる感動は、やはり別物ですよね。
嵯峨 たとえば『Detroit: Become Human』を例にすると、実況で物語を観ているときと、自分で選択して“誰を救うか・誰を犠牲にするか”を判断したときとでは、心の動きがまったく違うと思うんです。プレイヤー自身の判断が物語に反映されるからこそ、誰かを救えなかった後悔や選択の重さがリアルに残る。それがゲームというメディアの本質的な強みだと思います。
加藤 ゲームは、自分の選択が直接世界を動かす体験ですよね。そこがアニメや映画とは決定的に違う。
嵯峨 でも、そうした“体験の深さ”を知ってもらうまでが難しい。現代人には他にもたくさんのエンタメがありますから、その中でゲームを選んでもらうための伝え方を常に考えています。最近は“タイパ”(タイムパフォーマンス)という言葉も浸透して、「短時間でどれだけ満足できるか」が重視される傾向にあります。
ゲーム業界でも「サクッと終わる方が遊びやすい」「100時間以上かかる大作はちょっと重い」といった流れが生まれていて、インディーゲームがメジャーになった理由の一つも、まさに“手軽さ”だと思います。低価格で短時間でもしっかり体験できる点が、今のプレイヤーの生活リズムに合っているんですね。
加藤 わかります。アニメも似たようなところがあって、1話なら気軽に観られるけど、シリーズを全部観ようとすると実はかなりの時間がかかる。
長期シリーズになるほど敷居が高くなって、途中から入るのも難しい。それで“1クール完結”の作品が増えているのも時代に合わせた流れなんだと思います。
嵯峨 そういう意味では、今の時代は“時間との付き合い方”がすべてのエンタメに影響していると思います。ゲームもアニメも、まず「どう入口で関心を持ってもらうか」、そして「どう最後まで楽しませるか」が問われるようになっている。
加藤 あと、ゲームはどうしても価格のハードルがありますよね。アニメはサブスクや無料配信で気軽に観られるけど、ゲームは1本数千円、最新作なら1万円近いものもある。
嵯峨 はい。アニメは月額料金でいくらでも観られるのに比べて、ゲームは“購入する”という行為が必要になります。その分、遊ぶ側も「面白くなかったら…」と考えてしまう。
でも逆にいえば、わざわざ時間とお金を払って遊ぶ分、得られる没入感と満足感は圧倒的です。その“積極的に関わる体験”こそがゲームの価値ですよね。
加藤 アニメの手軽さが、逆に海外への広がりを後押ししているところもあります。サブスクで簡単にアクセスできるから、今では世界中で日本のアニメが観られている。それが結果的に市場を拡大し、クリエイターの地位向上にも結びついている。良いサイクルが生まれていると感じます。
嵯峨 ゲームも今、似たようなサイクルに入りつつあります。国境を越えて同時に発売され、オンラインでプレイヤー同士がつながる。“遊び”が世界共通語になる日もそう遠くないのかもしれませんね。
◆編集者の血が騒ぐ!? ファミ通的“やらかし”秘話

加藤 ちなみに『週刊ファミ通』で、「これはやらかしたな……!」みたいなエピソードってあります?
嵯峨 うーん(しばらく考え込む)。逆に加藤さんだったら、どんな話をされます?
加藤 僕、けっこうあるんですよ(笑)。編集長になる前、まだ一スタッフだった頃に、すごくくだらない小ネタを“秘技”として紹介する企画を作ったことがあって。
たとえば「ドラクエのキャラの見た目が変えられる」というネタで、テレビ画面の中央に自分の写真を貼るだけ(笑)。するとキャラは常に画面の真ん中に出るので、「これでオリジナルの見た目でプレイできるぜ!」みたいに紹介してたんで
嵯峨 昔に比べると、そういう“おバカ記事”は減っちゃいました。私の場合は、入社2~3年目の夏に、ゾンビゲームの特集用にお台場でゾンビメイクをして撮影したことがありました。撮影後、顔のメイクだけ落として髪や衣装はそのまま電車で帰ったんですけど……あれは完全に不審者でしたね(笑)。もちろん撮影許可は取ってましたけど。
加藤 (爆笑)いいですね、それぐらいの無茶がやっぱり編集部らしいですよ。僕も832号の時、広島から自転車で幕張メッセまで行ったことがあって。しかもロケ車を出してスタッフを何人も同行させて、撮影費も宿泊費もかけた。それで撮影した映像をどこにも出さなかったんですよ(笑)。
嵯峨 もったいない! でもわかります。『週刊ファミ通』にはそういう“無茶だけど本気”な文化がありますよね。うちでも時々、「そこまでする!?」っていう企画はまだあって、ちょっと安心します(笑)。たとえば去年『Ghost of Yōtei』が出たときに、スタッフ2人を北海道の羊蹄山に登らせたんです。ガイド付きで、登山装備をレンタルして、しかもインバウンドで高いニセコの宿を3泊も取って。「ほかのメディアは山に登らないだろう!」という理由だけで(笑)。
加藤 いや、それはもう『週刊ファミ通』にしかできない企画ですよ。
嵯峨 さすがに記事もちゃんと作りましたし(笑)、映像も公開しました。よかったら『週刊ファミ通』のYouTubeチャンネルで観てください。
◆ “好き”を続ける力 40年の歴史が語る雑誌の未来

加藤 最後に、嵯峨さん。『週刊ファミ通』の未来について、どう考えていますか?
嵯峨 ここまで続いている週刊誌って、もはや“奇跡”だと思うんです。だからこそ、まずはこの形を紙の雑誌として続けていきたいというのがいちばんの願いですね。この数年は特に「続けてきたことそのものの価値」を、自分たちも強く感じていますし、ゲーム業界の皆さんも同じように感じてくださっているのではないかと思います。
加藤 僕も、紙の雑誌を見直すムーブメントが起きていると感じています。
嵯峨 「『週刊ファミ通』で特集してほしい」という声を、以前より多くいただくようになりました。表紙も含めて大々的に取り上げることが、ゲームメーカーさんにとって“価値のあること”として再認識されているのかもしれません。それはWebでは提供できない“体験コンテンツ”だと思うので、この部分を大切にしながら継続していきたいですね。
加藤 つまり、「そこに明確なニーズがある」ということが可視化された段階なんでしょうね。
嵯峨 そうだと思います。やめるのは簡単なんですけど、もう一度立ち上げるのは本当に難しい。だから、この“続けてきた文化”を絶やさないようにしたい。もちろん、いま情報を最初に得るのはWebが中心ですから、そこにも全力で取り組んでいきます。私は『週刊ファミ通』の編集長ですが、『ファミ通.com』編集部も、映像制作チームも仲間です。編集者それぞれが、自分の担当するタイトルを“どのメディアでどう発信すれば最も伝わるか”を考えられるようになることが大切。
それによって、ゲームが好きな人がより盛り上がってくれる、読者や視聴者と喜びを共有し、“楽しい”を増幅させられる存在でありたいと思っています。
加藤 紙の雑誌はもちろん残すべきだし、大事な文化だと思います。でも『ファミ通』グループ全体としては、あらゆる媒体において適材適所でいいものを届ける方針、それはこれまでもこれからも変わらないですよね。ただ、やっぱり中心にあるのは紙の雑誌なんでしょうね。
嵯峨 はい。『週刊ファミ通』は、会社の中でひとつの柱だと思っています。
加藤 なるほど。では、未来像というと少し大きい話ですが、「究極的にどうあるべきか」というビジョンも考えていますか?
嵯峨 あくまで個人的な考えですが。『ファミ通』は最初、アウトローな存在として始まったと思うんです。でも今は競合が減り、“王道のメディア”になりつつある。だからこそ、「ゲームが好きな人が最初に手に取る雑誌」であり続けたい。
たとえば、好きなタイトルを知りたいと思ったとき、最初に頼られる存在でいたい。『ファミ通』らしさって、実は明確に言葉にされてこなかったけど、歴代のスタッフが受け継いできたDNAのようなものがあります。私の思う『ファミ通』らしさは、“手を抜かず、王道としてやれることをやる”ことだと思っています。
加藤 その想い、すごくわかります。僕も編集長だった当時は、「初めて読む人にとってハードルが高すぎる雑誌にはしない」と強く意識していました。専門用語や内部的な知識ばかりになってしまうと、初めて手に取った読者が“自分には難しい”と距離を置いてしまいますからね。いまの『週刊ファミ通』が初心者も安心して読める構成になっていると聞いて、安心しました。
嵯峨 私たちはそこを意識して続けています。初心者にも届き、コアなファンにも満足してもらえる。その“幅の広さ”が『週刊ファミ通』の魅力だと思っています。
加藤 つまり、“ゲームのメディアとして圧倒的な存在感を示し続ける”ということですよね。読者と作り手のあいだに立ち続けるメディアであり続ける。
嵯峨 まさに、そこを目指しています。変わりゆく時代の中で、“居続ける”ことこそが最大のチャレンジですね。
嵯峨 ……と、私ばかり話してしまいましたが、加藤さん。『週刊ファミ通』の未来について語ったので、今度は『アニメディア』の未来をお聞きしてもいいですか?
加藤 もちろん(笑)。やっぱり最終的には、『月刊ニュータイプ』抜いて一番になることですね(笑)。でも冗談抜きで、アニメ業界で“一番の雑誌”を目指したいと思っています。本屋がどんどん減るし、世の中的にはなかなか厳しい環境です、だからこそ、“続けることの価値”を信じて、少人数でも粘り強く、作品やファンに寄り添いたい。そこは嵯峨さんとまったく同じ気持ちです。
嵯峨 そうですよね。雑誌を「続ける」というのは本当に難しいこと。でも続けるからこそ意味がある。私たちもお互い、同じ場所で踏ん張っている気がします。
◆プロフィール
・嵯峨寛子(さが・ひろこ):株式会社KADOKAWA Game Linkage 週刊ファミ通編集部 編集
『週刊ファミ通』編集長。2009年より週刊ファミ通編集部に所属。
『ファミ通.com』副編集長を経て現職。
ゲーム好きに刺さる熱量のある記事づくりを日々心掛けている。
・加藤克明(かとう・かつあき):株式会社イード アニメディア編集部 編集長
1990年に当時の『ファミコン通信』(アスキー:現『週刊ファミ通』)編集部に参加。副編集長、ファミ通64+編集長、週刊ファミ通編集長などを歴任し、数多くのユニークな企画を手がける。
その後、KADOKAWAグループにてWalker47やニコニコチャンネル等の編集長を務め、2018年にハナペン合同会社を設立。2023年より現職。
ファミ通時代の「バカタール総合研究所」などに象徴される遊び心を軸に、ゲーム・アニメ両分野の経験を活かし、媒体の枠を越えて読者に“楽しい驚き”を届ける編集を目指している。


