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1月4日、東京・上野の東京文化会館にて『Game Symphony Japan 5th Concert -New Year Special 2015-』が開催されました。
Game Symphony Japan(以下、GSJ)とは、株式会社アイムビレッジが主催するゲーム音楽コンサートです。「従来のゲーム音楽コンサートとは一線を画し、ゲームの作品性、芸術性、物語にフォーカスし、音楽を通じてゲーム文化およびゲーム音楽の文化的価値向上を目指す」というコンセプトで活動しています。
今回演奏されたのは、GSJ音楽顧問7人(植松伸夫氏、菊田裕樹氏、小林啓樹氏、岩垂徳行氏、なるけみちこ氏、坂本英城氏、下村陽子氏)の手がけたゲーム音楽を、各顧問が自薦した、ニューイヤー・スペシャルプログラム。GSJのプロデューサー・指揮者である志村健一氏の指揮のもと、東京室内管弦楽団と東京混声合唱団の熱い演奏が披露されました。
また、ステージに登壇した小林氏、岩垂氏、なるけ氏、坂本氏 、下村氏らによるトークも楽しめました。本稿では、顧問の皆さんのトーク内容も含めて、このコンサートの模様をお届けします。
【『Game Symphony Japan 5th Concert -New Year Special 2015-』プログラム】
■菊田裕樹 作曲
・『聖剣伝説2』より「天使の怖れ」「子午線の祀り」
■小林啓樹 作曲
・『ACE COMBAT 5: The Unsung War』オープニングメドレー
・『ACE COMBAT 5: The Unsung War』エンディングメドレー
(Alto Solo:栗原苑子(東京混声合唱団))
■岩垂徳行 作曲
・『グランディア』より「世界の果て」「スーとの別れ」
・『パーフェクト ワールド -完美世界-』より「オープニング」
(指揮:岩垂徳行)
■なるけみちこ 作曲
・『パーフェクト ワールド -完美世界-』より「祖龍の城」
・『ワイルドアームズ セカンドイグニッション』メドレー
(「オープニング(WA2)」「どんなときでも、ひとりじゃない(WA2)」「荒野の果てへ(WA1)」「1st IGNITION(WA2)」)(口笛:谷岡久美)
・『天使の詩』メドレー
(「RIOT LOGO~OPENING」「MARRIGE FIELD」「VILLEGE OF CELTS」「STAFF ROLL」)
■坂本英城 作曲
・『討鬼伝』より「鬼討ツモノ」
・『タイムトラベラーズ』より「The Final Time Travaler」
・『勇者のくせになまいきだ:3D』より「来たるべきセカイ」
■下村陽子 作曲
・『LIVE・A・LIVE』より「LIVE・A・LIVE」
・『キングダム ハーツII』より「Dearly Beloved」「Scherzo Di Notte」
■植松伸夫 作曲
・『ファイナルファンタジーX』より「ザナルカンドにて」「祈りの歌~スピラ」「シーモアバトル」「素敵だね」
≪アンコール≫
■植松伸夫 作曲
・『ファイナルファンタジーVII』より
「ゴールドソーサー」「ルーファウス歓迎式典」
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GSJプロデューサー・指揮者 志村健一氏
開演時間になると、指揮者の志村氏が登場。はじめに演奏されたのは、『聖剣伝説2』のオープニング曲「天使の怖れ」。雄大な自然を思わせる、美しい旋律がホールを包み込みます。続くラストバトル曲「子午線の祀り」では、勇壮な金管の音色を主体にした、非常にハイテンポで力強い演奏が響き渡ります。途中に入る木琴の早弾きもお見事でした。
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演奏を終えた志村氏は、「あけましておめでとうございます!」と新年の挨拶。また、GSJは2014年、サントリーホールで交響組曲『ファイナルファンタジーVII』をメインプログラムにしたコンサートを2公演開催し、さらに12月にはロシアでも2公演を開催したことを紹介しました。今回のコンサートについては、「過去にニューイヤーコンサートはたくさん開催されていますが、“ゲーム音楽だけのニューイヤーコンサート”は、日本はおろか世界的に見ても初めてではないかと思います」と語ります。
「今回はオムニバス形式で、GSJ顧問の先生方が作曲した色々なタイトルの楽曲を演奏しますが、GSJの基本的なコンセプトは、“1つの作品をしっかり見つめながら音楽で勝負する”というものです。今年は、東京、大阪、浜松など、各地で公演を行います。また、海外にも、ゲーム音楽を日本の文化として積極的に発信していきたいと思っています」と、志村氏は今年の抱負を述べました。
続いては、GSJ音楽顧問の1人である作曲家・小林啓樹氏が作曲した『ACE COMBAT 5: The Unsung War』から、オープニングメドレーが演奏されました。重厚で緊張感のあふれる演奏が繰り広げられます。後半に入った美しいピアノソロも絶品でした。
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栗原苑子氏
次に披露された同作のエンディングメドレーでは、東京混声合唱団の栗原苑子氏がエンディングテーマ「The Journey Home」を熱唱。合唱団のコーラスも重なり、美しく神聖な雰囲気でした。
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小林啓樹氏(左)
ステージに登壇した小林氏は、『ACE COMBAT 5』の音楽作りについて、「物語の中で描こうとしていた“国家間の大きな争い”というものを、音楽でも描きたくて。それを表現するために、曲作りの時にはロシアとアメリカ両方の国歌をいつも聴いて、刷り込んで作曲しました」と明かします。志村氏によると、『ACE COMBAT 5』の楽曲はGSJのロシア公演で演奏した際にも大好評だったとのことで、「そうやって作った楽曲が、ロシアでも演奏されて嬉しいですね」と小林氏は頬を緩ませて語りました。
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岩垂徳行氏
続いては、岩垂徳行氏が登場。「生きていらっしゃる作曲家の方がご自身で指揮する、というのもひとつの醍醐味ですよね」(志村氏)ということで、岩垂氏の作曲したゲーム音楽が、岩垂氏自身の指揮で披露されました。
まずは1997年にセガサターンで発売されたRPG『グランディア』から、「世界の果て」。勇ましいイントロから始まり、重厚な金管と弦による美しい旋律が響きます。岩垂氏はしなやかに身体を動かし、熱くタクトを振るいました。続く「スーとの別れ」は悲哀を帯びたピアノが印象的な楽曲。せつなさの溢れる旋律が、オーケストラで情感豊かに奏でられます。
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続いては、2006年にリリースされたハイファンタジーMMORPG『パーフェクト ワールド -完美世界-』から「オープニング」。流麗な弦の音色と、金管と打楽器が織りなす、壮大かつ美しいハーモニーが非常に心地よい演奏でした。
岩垂氏によると、今回の「スーとの別れ」が演奏されたのは日本では初めてとのことです。またこの楽曲を選んだ理由について岩垂氏は、「今回はニューイヤーコンサートということで、ウィンナワルツ(3拍子のワルツ)の楽曲をやりたいと思って、ウィンナワルツを一所懸命探したんですよ。でも僕の楽曲にはウィンナワルツが無くて(笑)。とにかく3拍子の楽曲にしようということで選びました」と明かしました。
次に披露されたのは、なるけみちこ氏の楽曲です。まずは『パーフェクト ワールド -完美世界-』より「祖龍の城」。打楽器、特に鈴やカスタネットの音色が印象的な楽曲で、迫力ある演奏が会場を包み込みます。
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口笛を披露する谷岡久美氏
続く『ワイルドアームズ セカンドイグニッション』メドレーでは、作曲家の谷岡久美氏が口笛を担当。ウエスタンの衣装に身を包んだ谷岡氏による口笛が、軽快かつ涼やかに鳴り響きました。
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なるけみちこ氏(中央)
登壇したなるけ氏によると、今回口笛を谷岡氏に依頼した経緯については、「沖縄ゲームタクト(2014年3月に沖縄で開催されたゲーム音楽イベント)で初めて口笛をお願いしてやってもらったんですけど、すごくいい感じだったので、今回もお願いしました」とのことです。
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続いて演奏された『天使の詩』は、1991年に日本テレネットからPCエンジンSUPER CD-ROM2で発売されたRPGです。オーケストラと重厚なコーラスが、華麗な旋律を奏でます。ラストのピアノと弦、女声コーラスによるハーモニーはとても神々しく、心が洗われるかのような美しさでした。
なるけ氏は、『天使の詩』の作曲担当者が、なるけ氏と小川史生氏の2人であることに触れます(小川氏はタイトル曲とスタッフロールの曲を担当。他は全曲なるけ氏が担当)。「小川さんは7年前から天国の住人になったのですが、発売から24年経って今回初めて演奏されて、小川さんもすごく嬉しく思っていると思います。すごい作曲家の皆さんの音楽と並んで、しかも、こんなに歴史のあるホールで演奏されて、私も本当に嬉しいですね。今日は、きっと小川さんも聴いてくださっていると思います」と、なるけ氏はしみじみと感想を語りました。
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続いては坂本英城氏の作品から、『討鬼伝』より「鬼討ツモノ」、『タイムトラベラーズ』より「The Final Time Travaler」、『勇者のくせになまいきだ:3D』より「来たるべきセカイ」の3曲が演奏されます。特に素晴らしかったのが、弦を主体にした感動的なナンバー「The Final Time Travaler」。少しずつ重なり、盛り上がってゆく美しい弦の音色が絶品の美しさでした。
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坂本英城氏
「The Final Time Travaler」について、志村氏は「涙が出てきますね」と絶賛。この楽曲は、フィギュアスケートのソチ五輪金メダリスト・羽生結弦選手が、2014年12月にバルセロナで開催されたグランプリファイナルのエキシビジョン演技の際に使用したことでも話題になりました。坂本氏は羽生選手と食事をする機会があったことを明かし、「羽生選手はゲームがお好きで、『タイムトラベラーズ』も実際にプレイしたそうなんです。「The Final Time Travaler」はエンディングで流れる楽曲ですから、なんとか本番で滑る前までにゲームをクリアしたかったそうで。でも、本番には間に合わなかったみたいで…。お忙しい方ですからね」と、裏話を披露します。
また、『勇者のくせになまいきだ:3D』の原曲は、ピアニカやリコーダーといった、小学校の音楽の授業で習う楽器だけで演奏されているというお話も。坂本氏は、「もともとは実際の子どもたちに演奏してもらう予定だったんですよ。でも、家に帰ってお母さんに話したりしないかな、機密保持的に大丈夫かな?とか(笑)、色々と問題があって。最終的にはノイジークローク(坂本氏が代表を務めるゲーム音楽制作会社)の社員たちで演奏しました」と、ユーモアを交えて楽曲の制作秘話を明かしました。
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下村陽子氏
次は下村陽子氏の作品から、『LIVE・A・LIVE』の勇壮なオープニング曲「LIVE・A・LIVE」、『キングダムハーツII』のタイトル曲「Dearly Beloved」、ホロウバスティオンの戦闘曲「Scherzo Di Notte」が演奏されました。
今回の選曲について、下村氏によると、『LIVE・A・LIVE』はスクウェア(現スクウェア・エニックス)に入社して初めて担当したタイトル、『キングダムハーツ』はスクウェア社員時代の最後に担当したタイトルで、ちょうど最初と最後でおもしろいかなと思い選んだそうです。
「Dearly Beloved」に関して下村氏は、「私はいくつもの作品を担当してきましたが、『II』とついている続編作品を担当したのは『キングダム ハーツII』が初めてだったんですよ。だから『キングダムハーツII』の「Dearly Beloved」は、始まりの楽曲でありながら、“私はここに帰ってきたんだ”という気持ちを表現したくて作って。とても思い入れがあるんです」と、楽曲への強い想いを語りました。
また『キングダムハーツII』のタイトル画面は、音楽と演出を合わせるため、「オフィスに入って、プログラマーさんと一緒に、タイトルロゴが表示されるタイミングを「あと1秒……いや、0.5秒遅く!」という感じで(笑)、とても細かく調整していました」と、制作時の思い出を振り返っていました。
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ジェーニャさん
ここで、志村氏から「紹介したい方がいます」ということで登場したのは、ロシア人声優・歌手・タレントのジェーニャさん。彼女は2014年12月に開催されたGSJのロシア公演で司会と歌を担当しました。彼女は16歳の時に地元で放送された『美少女戦士セーラームーン』を見て、日本のアニメにあこがれて日本語の勉強をして来日。2009年に『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』の冒頭のシーンのオペレーター役でデビューして以来、現在はNHKの『テレビでロシア語』などにレギュラー出演するなどして活躍中です。
ジェーニャさんは、アニメやゲームが大好きで、ゲーマー歴20年とのことです。今回演奏された『聖剣伝説2』については、「私が初めてプレイした日本のRPGだったんですよ。聴いててすごく泣けてきました。GSJのロシア公演の時も、ロシアのゲーマーの皆さんが、“日本のゲーム音楽がロシアに来てくれた!奇跡だ!”と熱く話されていて。いいですよね、そういう交流って」と語ります。志村氏が「国際交流、文化交流ということで、日本からもいろんなゲーム音楽を発信していきたいですね」と語ると、ジェーニャさんも「はい。日本のゲーム音楽の素晴らしさを伝えていきたいです」と応えていました。
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最後に演奏されたのは、『ファイナルファンタジーX』のメドレーです。ピアノソロが美しい「ザナルカンドにて」から始まり、重厚なコーラスが圧倒的な存在感を放つ「祈りの歌~スピラ」。続く「シーモアバトル」は、原曲よりもややテンポを落とした、重厚感と迫力のある演奏が繰り広げられます。最後の「素敵だね」は弦をメインに据えたインストゥルメンタルバージョン。切なくも美しい旋律がしっとりと奏でられました。
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演奏後、観客から大きな拍手が贈られます。それに応えて、本日登壇したGSJ顧問の皆さんもステージに勢ぞろい。さらに続く拍手に応えてアンコールで演奏されたのは、『ファイナルファンタジーVII』の「ゴールドソーサー」! とても壮大かつきらびやかなオーケストラ演奏が披露されます。デートイベントの楽曲である「初舞台」も途中に入るのがなんともニクいアレンジでした。
続いて始まったのは、同じく『ファイナルファンタジーVII』から「ルーファウス歓迎式典」。ニューイヤーコンサートにふさわしい、非常に軽快で明るいマーチの演奏に、観客からは手拍子が入ります。さらに途中からはコーラス隊が、「ルーファウス神羅!ルーファウス神羅!我らが神羅カンパニー、あーたらしーい社長ー!」というゲーム中の歌詞を歌い上げます。最後の瞬間、会場は万雷の拍手! 大盛り上がりでコンサートは幕を閉じました。
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終演後には、ロビーでGSJ顧問の皆さんのサイン会が行われました。多くのファンが列を成し、サインを求めます。ファンの皆さんはもちろん、顧問の方々も、皆とても嬉しそうな表情だったのが印象的でした。
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というわけで幕を閉じたGSJのニューイヤーコンサート。志村氏のダイナミックな指揮と、東京室内管弦楽団と東京混声合唱団によって織りなされる華麗なハーモニーは非常に情感ゆたかで聴きごたえがあり、ゲーム音楽の“聴き初め”が存分に堪能できました。
次回のGSJ公演は、2015年3月28日(土)に静岡県浜松市で開催が予定されています。プログラムは、交響組曲『ファイナルファンタジーVII』。パイプオルガンの荘厳な響きとコーラス、フルオーケストラで『ファイナルファンタジーVII』の奥深い音楽世界が表現されます。同作の作曲者であり、GSJ特別顧問の植松伸夫氏も登壇するとのことですので、ご興味をお持ちの方は足を運んでみてください。
詳しい公演情報に関しては、GSJの公式サイトをご覧ください。
http://www.aim-vil.com/artists/game-symphony-japan/
【GSJプロデューサー・指揮者 志村健一氏よりメッセージ】
「交響組曲『ファイナルファンタジーVII』を演奏するには、パイプオルガンが欠かせません! 浜松が誇る「アクトシティ浜松 中ホール」が備えているパイプオルガンは、最大級規模の素晴らしいオルガンです。そのために、今回は「中ホール」を選びました。密度の高い濃厚なコンサートを、植松さんと一緒に、ぜひお楽しみください!」
Photo by Yutaka Nakamura