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恋なんて時間の無駄だと思っていた時期が筆者にもありました。恋する素晴らしさを教えてくれたのは2人の少女です。
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レニ・ミルヒシュトラーセ。眩い銀髪、透き通った肌、アクアマリンのような輝く瞳を持った、中性的な美しさを持つ少女。頭脳明晰で、天才的なバレエダンサーでもある彼女は15歳で、ドイツから帝都・東京にやって来た。筆者のセピア色のようだった青春を彩ってくれた初恋の女性です。
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もう一人は北大路花火。艶やかな黒髪、佇む姿勢の美しさ、向けられる笑顔の柔らかさは、まさに大和撫子の言葉がふさわしい。花の巴里で出会った19歳の彼女と過ごした輝く日々が、そのまま筆者にとって巴里のイメージになりました。
自分に恋する素晴らしさを教えてくれたレニと花火は、“名作の中の名作”と言われるドラマチックアドベンチャー『サクラ大戦』シリーズに登場するヒロインたちです。
◆『サクラ大戦』シリーズについて
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4月に開催された「セガフェス2018」において、新作の始動が発表され、多くのファンが歓喜した『サクラ大戦』。1996年にセガサターンで発売されたシリーズ第1作『サクラ大戦』の売上本数は(廉価版等を含めると)50万本を超え、その後、ドリームキャスト、PS2とプラットフォームを替えながら展開し、漫画・アニメ・舞台など様々なメディアミックスがされました。
2005年の『サクラ大戦V』を最後にナンバリング作品は長い間凍結していたにもかかわらず、2016年の「第1回セガフェス総選挙」において、作品部門・復活期待部門でダントツの1位になるほど根強い人気を誇っています。新作については、太正二十九年の帝都・東京を舞台に最新のプラットフォームで開発中だと発表されました。
■『サクラ大戦』ナンバリングタイトル
『サクラ大戦』(1996年9月27日・セガサターン)
『サクラ大戦2 ~君、死にたもうことなかれ~』(1998年4月4日・セガサターン)
『サクラ大戦3 ~巴里は燃えているか~』(2001年3月22日・ドリームキャスト)
『サクラ大戦4 ~恋せよ乙女~』(2002年3月21日・ドリームキャスト)
『サクラ大戦V ~さらば愛しき人よ~』(2005年7月7日・PS2)
※上記はスピンオフやパーティーゲームの位置づけに当たる作品を除いた本編のみ。セガサターン版の1と2も3発売前にドリームキャストに移植されました。
新作発表を受け、13年前に生まれた、昔のプラットフォームなのでプレイする機会がないなど、『サクラ大戦』を知らない人に向けて、「乙女に恋をする」という目線から魅力をお伝えします。
◆プラトニックラブ
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『サクラ大戦』は簡単にまとめると、蒸気技術の発展で高度な文明都市である帝都・東京が築かれた世界で、プレイヤーは大帝国劇場の雑用係(モギリ)として働く大神一郎となり、平時は歌劇団として舞台に立つ秘密部隊「帝国華撃団・花組」の少女たちと恋愛をしながら、光武と呼ばれるロボットに乗って帝都の平和を乱す魔に立ち向かうというもの。
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1話完結式で進むストーリーは、「ゲームの1話=アニメの1話」のようなテンポの良さ。まさに良質な1クールアニメを観ているような感覚です。ヒロインである花組隊員たちと会話を行うアドベンチャーパートと、光武に乗って戦うバトルパートから構成されていて、合体技など花組隊員それぞれの大神への好感度がバトルパートのパラメータに影響するので、意中の女の子以外とも仲良くしないといけません。キャラクター原案を藤島康介さん、キャラクターデザイン・作画監督を松原秀典氏が務めていて、どのヒロインも魅力的に描かれています。
全シリーズ合わせて18人のヒロインは、年齢から性格まで幅広く個性豊か。一人一人が悩みを抱えており、一緒に向き合って解決していくことで信頼関係が築かれていきます。大正時代、民法では男は30歳、女は25歳に達するまで結婚には親の同意が必要だと決められていた背景もあってか、作中の恋愛描写は非常にプラトニックであることも特徴ですが、「だが、それがいい!」と多くの方が思ったのではないでしょうか。本当に大切だからこそ、手を握ることすら躊躇われるのが男の純情ですよね。
◆レニと花火、どっちかなんて選べないぞ!
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筆者が同作をプレイしたきっかけは、『サクラ大戦2』で新ヒロインとして登場したレニがいたから。その中性的な見た目と作中でのミスリードもあって、最初、男だと思ったファンも多かったと思います。レニはその悲しい生い立ちから感情が奪われてしまい、当初は喜怒哀楽が乏しいのですが、好感度が上がることでどんどん素敵な笑顔を見せてくれてメロメロにされました。
2度目の帝都・東京の危機を救った後、軍の留学生として巴里に行くことになり、レニと離ればなれになった時は辛すぎて泣きました。筆者がプレイしていた当時、『サクラ大戦』シリーズは全て発売されていたのですが、巴里編の『サクラ大戦3』をいざプレイしても当初は“レニロス”に陥ってしまいました。
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『サクラ大戦3』では、大神が怪人たちから巴里を守る巴里華撃団・花組の隊長として戦うことになり、新ヒロインたちとも信頼関係を築いていかないといけなません。日本でレニが帰りを待ってくれているので、あくまで仕事と割り切ってヒロインに接しようと心がけていたのですが……花火を放って置けなかった。婚約者を失った悲しみから立ち直れなかった彼女は支えないと今すぐにも折れてしまいそうだったから。悲しみの底から立ち直って、強くなっていく花火の気高さに惹かれ始めて「守りたい。この笑顔」と思うようになった頃、レニが日本から会いに来てくれたのです。
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サクラ大戦は各話ごとに次回予告があるのですが、帝都華撃団が巴里にやって来るのを観た時は鳥肌が立ちました。さすが総合プロデューサーの広井王子さん!と改めて思いました。レニとの再会は泣きそうになりましたけど、花火の視線も感じて喜び全開とはいかず……これがいわゆる修羅場なのか!と戦慄を覚えました。
同作はセーブデータを引き継げるシステムになっていて、シリーズ1作目からの恋に決着を着ける最終章的立ち位置が『サクラ大戦4』。今度は巴里華撃団が帝都東京に応援に駆け付けてくれて共に最終決戦に臨みます。となると、レニか花火のどちらかを選ばなくてはなりません。ずっとレニと心に決めていたはずなのに、花火と出会ったことで揺らぐ自分がいて、「人間の心は何て弱いんだ!」と、コントローラーを置いて延々と悩みました。どちらかを選ぶということは、どちらかを選ばないと言うことで……すみません、少し熱くなりました。
◆音楽とアニメーション
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ここまでストーリーを語りましたが、同作を多くのユーザーに知らしめたのは音楽とアニメーションに依るところが大きいと思います。作中の曲やBGMのほぼ全てを、日本アニメ音楽を代表する作曲家の田中公平氏が作っており、1と2のOP「檄!帝国華撃団」と3のOP「御旗のもとに」は不朽の名作ではないでしょうか。音楽に合わせた作中のオープニングや次回予告、合体技などで観られるアニメーションの美麗さがファンの心を掴みました。
シリーズ最高傑作との呼び声が高い『サクラ大戦3』では、これまでの歌謡曲のOPとは違ったオーケストラ風の「御旗のもとに」が、「製作費数億円かけたらしい」と噂が一人歩きするほど度肝を抜くハイクオリティなアニメーションが今でもファンの間で語り草となっています。また、同作は「歌劇」が下地になっているため、声優による多数のドラマCD発売だけでなく、舞台公演も行われ人気を博しました。
◆第2部と言える『サクラ大戦V』から新作への期待
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同作は1~4までが第1部、Vは第2部との解釈ができると思います。何故なら、主人公の大神と18人のヒロインによる恋の物語は『サクラ大戦4』でひとまず完結しており、『サクラ大戦V』からは主人公が大神の甥の大河新次郎になり、1928年の紐育(ニューヨーク)に舞台を移して紐育華撃団の隊員である新ヒロイン5人と恋愛しながら平和のために戦うからです。
これまでのヒロインへの思いが強いファンも多かったため、なかなか気持ちの切り替えが難しかったファンもいたかもしれない『サクラ大戦V』。筆者は大神に自分を投影して、プレイしながらも甥っ子の活躍を応援している心境でした。それでも“テキサスの暴れ馬”と呼ばれたカウボーイならぬカウガールの新ヒロイン・ジェミニが可愛くて大好きでした。
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新ヒロイン5人の中ではジェミニが最初に発表され、前日譚にあたるジェミニが生まれ故郷のテキサスからニューヨークを目指す旅を描いた「サクラ大戦V EPISODE 0 ~荒野のサムライ娘~」が発売されています。こちらは完全なアクションゲームになっていて、プレイヤーが操作するジェミニは八面六臂の大活躍ぶりを見せてくれます。
逆に言うと、こちらで大活躍しすぎたせいか、『サクラ大戦V』では当初、夢を抱いてテキサスを飛び出たジェミニのポジションが不遇でかわいそうになりましたが、それもヒロイン全体のバランスを考えれば「良い演出」だと言えます。
以上、恋愛目線で『サクラ大戦』シリーズを語ってきました。プラットフォームの問題で今後リメイクされることがなければ、過去作をプレイすることは難しいかもしれませんが、新作では過去作のDNAを受け継いだものになるので期待が持てるのは間違いないはず。同作は「乙女と出会い、恋を知る物語」だと個人的には捉えています。これから乙女に出会う人がどんな素敵な恋になりますように。
(C)SEGA