◆プロデューサーに求められるのは高いコミュニケーション能力
入社当初の仕事がiPhone用のカーナビアプリ『ガンダムナビ』の制作だったという森口氏。当時の森口氏は『機動戦士ガンダム』自体をあまりよく知らなかったため、膨大なシリーズ作品をかたっぱしから見て知識を蓄積するところからのスタートだったそうです。森口氏は当時を振り返りながら「ハンパな知識ではゲーム業界に入るのは難しい」と語ります。
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森口氏が所属する開発プロダクションは、そうしたプロフェッショナルをまとめあげるプロデューサーたちの部署。プロデューサーはひとつの作品に対し、必ずしもそこまで深く精通している必要はありませんが、ゲームの立案、プレゼン、開発費と開発工程の管理、宣伝手法の検討、アップデートの管理……と一連のプロダクトのすべてを行う監督職となります。
「プロデューサーというと偉そうなイメージがあるかもしれませんが、そんなことはまったくありません。ただ、常に広い視野を持って、最初から最後までしっかり監督をしなければなりません。あらゆる部署で大勢の人たちと関わるので、高いコミュニケーション力が必要です」。
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ここで森口氏がコミュニケーションの上達手段として挙げたのが、ユニークな「陽キャ(陽気な人)ごっこ」です。
「仲がいい友達3~4人とカラオケに行って、思いっきり「うぇーい!」と騒いでください。そのあと、明るく接しやすく振舞えていたか、コミュニケーションを取りやすく感じられたか、友人同士で指摘しあいましょう。根っこの部分から明るくなれるなんてそうそうないですよ。だから、「明るく接しやすい人」だなと相手に受け止めてもらえるような術を身に着けてください。」。
◆7分間のプレゼンでゲームの魅力をすべて伝えるには?
そして講義は『ファミスタ エボリューション』を例に挙げたプロデューサーの具体的な業務紹介に。まずは社内での企画プレゼンに備え、ゲームの概要書を作成します。
「概要書とは「こんなゲームにしたい」という要素をまとめたものです。A4サイズの用紙3枚程度にまとめて、その範囲で人におもしろさを伝えられなければ失格です。A4用紙1枚にまとめるのが理想です」。
概要書がまとまり、開発会社の選定が済んだら、いよいよ社内でのプレゼンです。森口氏によれば、バンダイナムコではどんなに規模が大きいタイトルでもプレゼンのための時間は15分間しかもらえないとのこと。文字だけで説明していては時間が足りないので、絵やイラストだけで説明が済むところは文字を使わないなど、プレゼン資料の作成能力も求められます。セミナーでは、森口氏が『ファミスタ エボリューション』の社内プレゼンで用いたという企画書がほぼそのままの形で紹介されました。
「『ファミスタ』シリーズの購入者は、4割近くが既婚者です。それならば家族で遊べるようにと、プラットフォームはSwitchとしました。これなら一家のおサイフを握っている奥さんを口説きやすいし、お子さんも気軽に友達同士で遊べます。ゲームの企画を立てるときは、このくらい深いところまでプレイヤー層を想定します」。
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また、特典の有無、有料/無料DLCの有無、大まかな宣伝展開なども、この時点ですでに大枠を固めているとのこと。優れた先見性が求められます。
「ゲームのコンセプトとウリ、売り方、特典、プロモーション……すべてをしっかりと練りあげてプレゼンに臨みます。そうでなければ「これは売れますよ」とアピールできないし、できなければ開発費は承認されません」。
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特に、作ろうとするゲームのウリをいかに明示できるかは重要なポイントです。
「ゲームショップに行って、陳列されているゲームのウリを説明できるようになってみてください。売れるゲームがどういうものかがわかるようになってきます。「このジュースはどうして人気なのだろう」、「栄養ドリンクはどうしてサイズが小さいのだろう」など、ゲーム以外のものでもいいです。優れている商品のウリを見つけられるようになりましょう」。
そうして企画が無事に通ったら、いよいよ開発費を元手に制作が始まります。
「プログラムは何人で何か月稼働するので何億円かかりそうだ、背景美術はこう、サウンド周りはこう、デバッグ体制は……と試算を立てます。プログラムが予定より遅れているから人を増やそう……などと、どんどん変動するのが怖いところです。気が付いたら当初の試算を1億円上回っていたりとか……」。
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『ファミスタ エボリューション』の宣伝で心がけたのは、想定される購入層はいわゆるライトゲーマーがメインであること。”ライトゲーマーはゲームの情報を能動的に集めない”という前提で、そうした人たちのところに本作の情報が届くよう、芸能人や飲食店などとも積極的にコラボレーションし、さらには、ゲームメディアに出す情報もひと工夫をしました。
「AppleがiPhoneの新製品発表でそうするように、初出でほぼすべての情報を出し切りました。一度でも見れば本作の魅力がすべて届くようにすれば、ゲームの情報を集めない人にも存在を知ってもらいやすくなります」。
◆ワークショップを通して語られる、題材の”強さ”と”弱さ”
バンダイナムコでは「そのゲームは本当に売れるのか」、「そのゲームを実際に作れるのか」、「そのゲームを作って売ったら利益は出るのか」の3つを何よりも重要視しているとのこと。森口氏はその中で一番人に伝えるのが難しいのが「売れるのか」であると力説します。
「実際に作れるかは、しっかりした開発会社を選定して相談すれば分かります。利益が出るかは開発費と、何万本売ればよいか(売れそうか)を試算すればいい。ですが「そのゲームは本当に売れるのか」という企画の良し悪しに直結する部分は、相手を納得させるためのロジックが必要です。
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そうして始まったワークショップのテーマは「自分が考える”売れそうなゲーム”の題材をひと言で書いてください」というもの。テーブルごとにグループを組み、各グループからは「動物を操作して願いをかなえていくゲーム」、「童話に介入して物語の結末を塗り替えるゲーム」、「閉じ込められた屋敷の中で完全犯罪を達成するゲーム」などが発表されました。森口氏はそれら一つひとつの案を講評しつつ、“ゲームとしての魅力が伝わりやすい題材”について語りました。
「一番魅力が伝わりやすい……ゲームとして売れやすい題材は「その題材を誰もが知っていて、現実に存在するが、非日常的」なものです。例えば、プロ野球がこれにあたります。プロの野球選手は誰もがなれるわけではありませんから。他には戦国時代モノや、経営モノなどが該当します。
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反対に一番難しいのは「誰もが知らず、現実にも存在しない」……つまり、フィクションのオリジナル作品です。ですが、題材の力が弱い=売れないではありません。丁寧に作り込んで世界観や物語、システムなどでプレイヤーを魅了できれば結果はついてきます。最近なら、スクウェア・エニックスさんの『オクトパストラベラー』がよい例だと思います」。
ノウハウを惜しみなく披露したワークショップを終え、森口氏は最後にセミナー参加者への”宿題”を出しました。
「映画を見たり、美術館を訪れたりしていますか? ゲームメディアには目を通していますか? 能動的に知ろうとしないと、入ってこない情報があります。ふだんからアンテナを張りめぐらせてください。
「自分をアピールできる数字」を持ちましょう。在学中にゲームを作って何本売った、イラストをSNSで発表してどれだけ見てもらえた、なんでも構いません。今はそれが容易にできる時代です。やらなければ「できる環境があるのに、なにもしない人」という評価をされて終わりですよ。今の自分には”武器”がないと思ったら、今日からなにかを始めましょう。そうした”武器”を持つ人たちが、あなたたちのライバルです」。
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