◆伏線に怯え、物語に没入し、主人公とプレイヤーが罪を重ねる─アクションRPGだからこその繋がりがここに
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主人公である幡田 零が、見知らぬ空間で意識を取り戻すところから、本作の物語が幕を開けます。後に分かることですが、ここは「辺獄」と呼ばれる死後の世界。死者の魂は、この世界の最下層にある「再生の歯車」で記憶をリセットさせられ、輪廻転生を迎えます。
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しかし零自身は死者ではなく、妹の幡田 みらいと共に、この世界に引きずり込まれた生者。元の世界に戻るため、2人で辺獄を彷徨います。
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2人でいるとはいえ、見知らぬ世界では不安も募るもの。みらいは、「なにかあっても、わたしの手を離さないでね」と姉に願い、零も約束すると答えます。しかし、この約束を守ることができず、みらいと離ればなれになってしまう零。この危険な世界で戦う力を身に付け、みらいを助けに向かいます。
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幸い、みらいを見つけることに成功しますが、そこには幽鬼のひとり「アナムネシス」の姿が。元々この世界に2人が引きずり込まれたのは、このアナムネシスがみらいを狙ったためでした。
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みらいを助けるため、アナムネシスに立ち向かう零。しかしその力は暴走してしまい、自らの手でみらいの命を奪ってしまいます。自らの過ちに苦悩し、零は自我を失いかけますが、そこに悪魔を自称する「メフィス」と「フェレス」が現れ、自分たちと契約するならみらいの“ヨミガエリ“が可能だと提案します。
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この申し出を断れるはずもない零は彼女たちと契約する「代行者」となり、この辺獄で幽者たちと戦う日々が幕を開けます──と、ここまでは本作のオープニング。みらいとの約束からの離別、そして死別と、展開がやや急ぎ足ですが、ストーリー展開に時間を割きすぎると「アクションRPGなのにいつバトルが始まるんだ」という不満にも繋がるので、ジャンルを考えれば納得です。
そしてここまでの下りだけでも、物語に対する緊張感が、筆者の心に芽生えました。もちろん、直接描かれた物語の展開自体もそうですが、伏線を張り、それが着実に回収されるという、基本にして重要な構造がしっかりと確立していたためです。
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どれだけ意外な出来事でも、ただ起こるだけではドラマにはなりにくいもの。その出来事が起きた原因や、それによって広がる影響、対応するために動く人々の行動や感情の発露があり、そして結末や新たな展開に辿り着くことで心が動かされます。こう書くとややこしい話になりますが、一言でいえば「伏線と展開の連結」です。
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物語を盛り上げる要素となる「伏線」は、本作でも序盤からバシバシ貼られています。前述の「約束」などは、非常に分かりやすい伏線でしたので、飛び出した段階で嫌な予感を覚えました。そして、きっちり回収され、プレイヤーの心に直球が投げ込まれます。
これが刺さるかどうか、物語に魅了されるかは相性も大きいので、万人にお勧めできるかは分かりませんが──そもそも万人にお勧めできる物語が、実際に存在するのかどうか──『CRYSTAR -クライスタ-』が気になるアンテナをお持ちの方なら、向いている可能性は充分にあります。
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例えば、第1章「契約の代償」では、代行者・零が倒してきた幽者・幽鬼の正体が、ヨミガエリを望み辺獄のルールに従わない人間の魂だった、という事実がここで判明します。ルールを破っているとはいえ、生き返りたいのは誰でも願う気持ちですし、なにより零自身が、みらいのヨミガエリのために戦っています。
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幽鬼は、自分のヨミガエリのために死者の魂を食らい、零はみらいのヨミガエリを願って幽鬼を狩る。動機も、そして行っていることも、まったくの同等なのです。それぞれの願い、言い換えるならばエゴのために、他者を踏みにじる。そんな行為を自覚させられ、しかしみらいを助けるためには抗うこともできず、誰かを押しのける──しかもそれは、命令や強制ではなく、自らの意志で選んだことだと突きつけられます。
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この幽者・幽鬼の正体を明かすタイミングや、その事実を知った零が揺れることでみらいのヨミガエリが叶わなくなる可能性を示唆する動きなど、事前に張った伏線が見事に展開していき、「やっぱりこうなるのか!」「ああ、そうくるのかー」と、プレイしながらつい口に出てしまいました。
展開する物語につい没入してしまうのは、状況作りや展開の流れの上手さもあると思いますが、アクションRPGというジャンルも助けになっているかもしれません。というのも、幽者を狩るという行為そのものは、プレイヤーの操作によるもの。幽者を倒し続ける零を操作しているのは、紛れもなくプレイヤー自身なのです。
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ADVならば、展開する物語を「読む」立場ですが、アクションRPGならばプレイヤーの意志が直反映されます。極論ですが、零の意志を拒むのであれば、コントローラを置くだけですみます。だからこそ、敵を倒し続ける操作を行うのは、プレイヤーが零と同じ目的に向かう行為であり、罪を共有する立場を選択したとも言えます。
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ゲームシステムだけ切り取れば、バトルはシンプル故に物足りなさも感じますが、その行為に物語を重ねると、意味や選択、そして責任が生まれます。この重さが、様々な伏線と絡み合うことで、心がより動かされる──のかもしれません。
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ジャンルと物語との関係は、あくまで筆者が感じた印象と推測に過ぎませんが、そんな考えが自然と浮かび上がる点こそが、本作が持つ魅力と捉えることもできます。しっかりとした伏線があることでその先を想像したくなってしまうのは、久弥氏が『CRYSTAR -クライスタ-』に与えた力のひとつでしょう。
◆『CRYSTAR -クライスタ-』を遊び、零の共犯者になってみるのも一興
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『CRYSTAR -クライスタ-』がお勧めできるゲームかどうかの結論は、非常に悩ましいところです。先が知りたくなる物語は、伏線と回収のサイクルがしっかり行われており、気になった点が展開したり予想を超える出来事に繋がったりするのは、やはり見応えがあります。また、音楽やビジュアル、演出なども没入感を支えており、本作ならではの個性を感じさせてくれました。
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そして、アクション面でパンチが足りないのもまた事実。しかしアクションRPGだからこそ、プレイヤーの行為が零との結びつきをより強固にするため、不要な要素では決してありません。万人にお勧めしにくい作品ではありますが、色々と想像や推察をしながら物語を楽しむタイプの方ならば、本作の特徴と嗜好がマッチしやすいかと思います。
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全ての面で優れているというのは何事に置いても理想ではありますが、非常に難しいのも確かです。その上で、「全てが平均以上だけども凡庸」ではなく、「アンバランスだけども特筆する個性がある」を選んだ姿勢は、決して悪いものだとは感じません。お勧めできるかどうかはユーザーとの相性次第でもありますが、「泣きゲー」でプレイヤーの心を揺さぶった久弥氏が、涙を流すその先に如何なる物語を描くのか。その点が気になる方は、零の罪を共有してみてはいかがでしょうか。
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