ですが、僕としてはどうしてもロバハウスさんに演奏していただきたかったので、「おっしゃりたいことは分かります。ですが、ゲームはもう子供と切り離せない存在にまでなってきています。であればこそ、ゲームを通して子供たちにその本物の演奏を聴かせてあげてほしいんです」とお願いしたんです。その結果、「わかりました、それではお引き受けします」と。
――それはすばらしい口説き文句ですね……。
岩崎後日、植松さんから「なぁ、どうやってロバハウスさんを口説いたの?」と聞かれました(笑)。『FINAL FANTASY』は2015年から、シリーズの楽曲を吹奏楽で演奏するコンサートツアー「BRA★BRA FINAL FANTASY」を展開しているのですが、そこでまた植松さんが「今度こそロバハウスさんに演奏してもらいたいのでぜひオファーして」とおっしゃいまして。そんな経緯があって、2017年の公演でついにロバハウスさんに編曲していただけました。『FINAL FANTASY IX』が2000年発売ですから、制作時から考えると約20年越しですね。
荒木へえええ! あまりに面白い話で、僕まで聞き入ってしまいました(笑)。
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◆『FFCC』サウンドを成功に導いた3つの"武器"
岩崎なんだか脱線続きで申し訳ありませんが、もう一つ思い出したことがあるのですが……。
――当時のことをおうかがいできる機会はなかなかありませんので、ぜひお願いします。
岩崎GCはサウンド専用のチップが搭載されていませんでしたので、メモリのうちどれくらいをサウンドに割くかは、各メーカーがそれぞれの裁量で決める必要がありました。だから、僕は開発初期の段階で、紙山さん(GC版でメインプログラマーを務めた、スクウェア・エニックスの紙山満氏。直近では『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』でテクニカルディレクターを担当)に「サウンド用にメモリがこれだけほしいんだけど……」とお願いしにいきました。つまり、他の部署に先んじてメモリ領域を"奪い"にいったわけです(笑)。そうしたら、二つ返事で了承してもらえたんです。
荒木きっと、それでもどこからも文句は出なかったのではないでしょうか。紙山さんも天才肌の方だから、うまくやりくりしてくださったんでしょう。
岩崎そうかもしれません。ともあれ、こうして「谷岡さんの楽曲」、「ロバハウスさんの演奏」、「潤沢なメモリ領域」がそろいました。「この3つの武器があれば、GCで誰も実現できていないようなサウンドを実現できる!」と1人で興奮していたのを今もよく覚えています(笑)。『FFCC』の楽曲が成功を収められたのは――あえて成功と言い切ってしまいますが――ひとえに、才能を持つさまざまな人たちの力が重なったからこそでした。
――サントラもよく聴いていた当時の1プレイヤーとして、興味深いお話でした! そろそろお話をリマスター版に戻させていただきますが、ボーカル曲の「カゼノネ」と「星月夜」を新録されたとうかがいました。
岩崎Yaeさんの歌だけでなく、演奏も録り直しています。当時演奏してくださった方たちに再びお願いできまして、当時の音源を聴きながらあらためて編成から考え直しました。弦楽器はオリジナルよりゴージャスな編成になっていますよ。GC版ではハープは打ち込み音源でしたが、『リマスター』ではここも生の演奏になっています。また、間奏では当時の音源に今のロバハウスさんの演奏によるハモりが乗っていて、過去と現在の音が融合した感慨深いものになりました。
――それはエモいですね……。
岩崎さらに「カゼノネ」は今回フルサイズ版を新たに作っています。谷岡さんが「当時、本当はこの尺で作りたかった」と温めておられたものを形にしました。その結果、歌も2番を入れられることになりましたので、歌詞を片岡さん(本作のシナリオを手がけた片岡正博氏)に書いてもらいました。
荒木そんなフルサイズ版もゲームの中で聞けるように調整しています! どこで聞けるか、楽しみにお待ちください。
岩崎当時の思いに今の思いを乗せて、とてもいい楽曲ができたと思っていますので、本作の世界に浸る一助になれたら嬉しいです。
――ありがとうございました。最後に、2020年1月の発売に向けてのメッセージをお願いします。
荒木いよいよ「東京ゲームショウ 2019」が始まります! スクウェア・エニックスブースでは本作の試遊もできますので、お越しになれる方はぜひマルチプレイを体験していただければと思います。また、今年はステージイベントも行います。最新情報の発表に加え、谷岡さんの演奏によるYaeさんのライブも行う予定で、「カゼノネ」と「星月夜」を歌っていただきます! ステージの様子は配信でもご覧いただけますので、会場まで足を運べないという方もぜひご覧ください。
そして、「東京ゲームショウ 2019」後もさらなる新情報や新要素を発表させていただく予定です。2020年1月の発売に向けて順次公開していきますので、楽しみにお待ちください!
GC版の制作秘話も満載のインタビュー、いかがでしたでしょうか。最後に、GC版に引き続きリマスター版でもキャラクターデザインやパッケージビジュアルを手がけている板鼻利幸氏へのメールインタビューをお届けします。板鼻氏のご厚意で提供していただいた、貴重な原画の写真もあわせて紹介します!