ページをめくるたびに、時間と空間を超える冒険が広がる「護国記」
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ここまでは、ゲームブック最盛期を彩り、電子書籍で復刊を果たした名作たちを取り上げてきました。ですが、本記事の締めくくりを飾るべくピックアップしたのは、2018年に登場した完全新作──その名は、「護国記」です。
本作は、サイコロを振って戦うといったゲーム的な要素はなく、それまでの行動と戦闘中の選択肢が結果を左右します。バトル面でのルールがないため、文章を読み、選択肢を選ぶことだけに集中できるので、没入感も抜群です。
後半で単語をメモする場面こそありますが、そちらは頻度も少ないので、スマホの機能を使って書き留めておくもよし、手帳などにメモしておくのもよし。物語を読み進め、主人公の行動決定だけで、本作の99%を楽しめると言っても過言ではありません。
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そして肝心の物語ですが、読者は「壱の国」の書物編纂室員・ライゼ=インカルナとなり、他国からの急襲に立ち向かうことになります。一応の訓練を受けているとはいえ、兵士としての熟練度は決して高くないライゼ。しかも敵の先陣は、この世界でも名が知られた英雄ばかりで、まともに戦っても返り討ちに遭うだけです。
ちょうど、城の守りが手薄になったタイミングでの強襲。守りの要である防衛機構も停止するなど、あまりに不可解な事態が続きますが、一介の書物編纂員がその真実を知ることなど到底叶いません。──そう、ただ一度きりの人生であれば。
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ある出来事を通じて、ライゼは死ぬたびに時間を遡り、襲撃直前に輪廻する力を手に入れます。この「繰り返し」を通じて、襲撃の目的や裏事情、そして世界の危機と真実に近づいていくのです。
当初は、大事な人を守り抜くのが精一杯だったライゼですが、同じ時間を繰り返していく中で、英雄たちに対抗できる武器を手に入れ、使いこなす術も学び、頼もしさが増していきます。巻き戻る時に持っていけるのは記憶だけですが、“情報”の積み重ねこそを武器にして国を揺るがす事態に立ち向かう姿に、精神的な成長と英雄の資質を見出すことでしょう。
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その歩みを知り、時間の繰り返しを「ページをめくる」動作として実感する読者は、徐々にライゼとの一体感を覚えるはず。同じ時間を繰り返す物語自体は、映画や漫画、小説などにもありますが、ゲームブックだからこそ味わえるこの同一性は、他のメディアでは味わえない楽しさと言えます。
ライゼは、あなたの判断と選択によって様々な活躍を見せてくれますが、その道のりは平坦ではなく、そして意外な展開を迎えていきます。彼がどのように、「壱の国」を守り、護国を成すのか。エンターテインメント性とゲームブックの魅力が結びついたこの名作の結末を、ぜひその指で、めくってみてください。
■幻想迷宮書店「護国記」
http://gensoumeikyuu.com/gb31/
■Amazon「護国記」
https://www.amazon.co.jp/dp/B07J3K4M22/
昭和時代に最盛期を迎えた「ゲームブック」という娯楽は、停滞や沈黙が訪れた時もありますが、しかし途絶えてはおらず、今もその灯火が輝き続けています。
完全新作の「護国記」が登場したのは、2018年10月。令和の幕開けまで残り1年を切ったタイミングでリリースされており、平成を締めくくるに相応しい作品となりました。
また、「送り雛は瑠璃色の」の電子書籍版は、2020年4月に配信開始。今回は取り上げられませんでしたが、「幻想迷宮書店」ゲームブックの最新刊であり、通算3作目の完全新作となる「ラグーサ城攻防戦」も、その1ヶ月後に配信がスタートしています。
昭和、平成、そして令和と3つの時代を駆け抜けている「ゲームブック」。その市場は決して大きいとは言えませんが、今も新たな風が吹き続けているジャンルです。懐かしくも新しい風を受けながら、冒険のページをめくってみるのも一興ですよ。