被災サバイバルADV『サバイバーズ・ギルト』が投げかける、ひとつきりの結末―東日本大震災から10年、ゲームを通して「災害」を見つめてみた【プレイレポ】

揺るがない未来を描くゲームだからこそ、現実世界の厳しさや未来へのゆとりを教わりました。

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被災サバイバルADV『サバイバーズ・ギルト』が投げかける、ひとつきりの結末―東日本大震災から10年、ゲームを通して「災害」を見つめてみた【プレイレポ】
被災サバイバルADV『サバイバーズ・ギルト』が投げかける、ひとつきりの結末―東日本大震災から10年、ゲームを通して「災害」を見つめてみた【プレイレポ】 全 29 枚 拡大写真

本日3月11日は、東日本大震災からちょうど10年という節目。被災された方はもちろん、直接被害に遭わなかった人も、10年前に起きた出来事を思い起こしていることでしょう。

震源地から離れていたため、筆者は大きな被害に遭わずに済みました。しかしながら、あの日に何があったのかは、今でもはっきりと思い出せます。外出中だったため、小さからぬ揺れを感じたものの何が起きているのかは把握できず、取り急ぎ家族に連絡を取ろうと行動しました。

10年前とはいえ、携帯電話やスマホが普及していたので、周囲には端末を覗き込んでいる人が多数。ですが、回線が混み合っているのか、うまく繋がっていないようでした。そこで筆者は、駅にある公衆電話に飛びつきます。固定回線の強みか通話は安定しており、取り急ぎ家族の無事を確認でき、胸を撫で下ろしました。

ですが、それ以上に印象的だったのは、公衆電話に長蛇の列が出来ていたことです。携帯電話の普及に伴い、当時すでに公衆電話の設置台数はかなり減少していました。使う人もほとんど見かけなかった公衆電話に、あれほどまで人が列をなした光景は、今も忘れません。

10年前に起こった出来事は、色濃い記憶となって残り続けています。しかし、当時の記憶そのものを思い出す頻度が、年々少なくなっているのも事実です。TVやネット上の情報を介して、あれほどの被害を目の当たりにしたのに、食料や飲料水の備蓄も十分ではなく、何事もない日常に甘えた日々を送っています。


災害に備えた行動は、重要であるだけに、どうしても腰が重くなりがちで。ならば、せめてアクセスしやすいところから始めてみるのはどうだろうか―そう考えたゲームライターが手を伸ばしたのは、スマホ向けアプリ『サバイバーズ・ギルト』でした。

本作は、巨大地震の発生によりエレベーターに閉じこめられた主人公が、救出を求めながら生存を目指す災害ADVゲーム。被災の当事者となって、災害が与える影響や極限の状況と向き合い、その結末を見届けるといった内容になっています。

現実の被災は避けたいところですが、ゲームによる体験ならば実際の被害はありませんし、心構えのひとつにも成り得るかもしれません。3月11日という日を漫然と過ごすよりも、ささやかでも何らかのアクションを起こそう。そんな心境と共にプレイした『サバイバーズ・ギルト』を今回ご紹介します。なおプレイしたのはAndroid版です。

リソース管理がサバイバルの秘訣―コンパクトながらも確固たるゲーム性を提供



『サバイバーズ・ギルト』の作中で起きる災害は架空のものですが、テーマがデリケートなのは間違いありません。そのため、本作で描かれる「被災にまつわる物語」については後ほど触れる形とし、まずはゲーム性について迫りたいと思います。

本作のゲーム性を簡単にまとめるならば、「先が見えない状況に備えながら、リソースを管理して生存を目指す」―これに尽きます。そして、筆者が抱いていた第一印象を覆し、しっかりとしたゲーム性を持つ作品でもありました。

災害への警鐘や防災意識の喚起を促すゲームはいくつもありますが、テーマを描くことを重視し、ゲーム性は控えめというケースも少なくありません。それは手抜きではなく、より多くの方々に触ってもらおうと間口を広げるため、ゲーム性を抑えた作りになっているのだと思われます。


そういった作品もあるなか、『サバイバーズ・ギルト』は、手元にある物資(食料や水など)を管理するサバイバル作品として、コンパクトながら確固たるゲーム性を提供。時間経過で訪れる飢えや喉の渇き、環境の変化によって悪化する体調などを、限られた物資でいかに乗り越えるのか。全ては、プレイヤーの判断次第となります。

食料だけでも種類は豊富で、一度に高い満腹感が得られるものの腐りやすかったり、長持ちするけど水分が奪われるものなど、それぞれ異なる特徴を持ちます。持ち込む物資の取捨選別から、生存への戦いがすでに始まっているのです。


またゲーム開始時直後に、主人公のキャラメイクもあります。質問に答えてステータスが変動するシンプルなタイプですが、文字通りの意味で生存に直結するため、こちらも疎かにできません。

キャラメイクと物資の選択は、いずれも「これから訪れる異変についての対処」と言えます。これはゲームとしての思考でもありますが、決して実際の世界と乖離してるわけではありません。突き詰めて考えていくと、現実世界における備えにも繋がるので、一考を促す良いきっかけにもなりそうです。

準備を整えたプレイヤーを、どんな展開が待ち受けているのか。この点について詳しく述べるとネタバレになってしまうため割愛します。何が待ち受けているのか分からないからこそ、想像を膨らませ、事態の推移を予測し、自分だけの答えを出して備える。その手応えを最大限に味わうには、暗中模索のまま本作に挑むのが最も優れたやり方だと、実際のプレイを通じて感じました。


ちなみに、しっかりしたゲーム性があるものの、ルール自体は非常にシンプル。「複雑で分かりにくい」といった要素はないので、間口自体はかなり広い作品です。基本無料でのプレイも可能なので、その意味でもかなり触れやすいと言えます。

プレイボリュームは約3時間程度で、集中すれば一気に終わらせることも可能。ただし、ゲーム進行に合わせてプレイチケット(毎朝5時に回復)が必要になるので、無料プレイの場合は何度かに分けてプレイしなければなりません。


また、画面下部に広告が表示されるほか、プレイ中に広告が全面表示される場合もあり、没入感に少なくない影響を与えます。極限的な状況に直面する作品だけに、臨場感が阻害されてしまうのは、体験として非常にもったいないところです。

ちなみに、「広告削除」と「プレイチケット無制限」が有料で販売されているので、序盤をプレイして気に入ったら、購入を検討してみるのもひとつの手です。セット価格なら、610円で快適に遊べます。

ひとつだけの未来を描く『サバイバーズ・ギルト』を通して、厳しくも「ゆとり」が残された現実を知る



被災時のサバイバルをゲーム性に落とし込んだ『サバイバーズ・ギルト』は、リソース管理の観点から厳しい状況を実感できる作品に仕上がっていました。ですが、本作の最も力強いポイントは、描かれる物語にこそあります。

繰り返しますが、その物語について触れると、ゲーム展開以上のネタバレ要素になってしまうため、作品紹介に記された内容に触れる形でご紹介します。

職場のエレベーターに閉じこめられ、何が起きたのかも分からない状態のまま、本作の物語は幕を開けます。当初は、混乱と不安が渦巻くばかりですが、次第に外部との連絡も可能となり、少しずつ状況に変化が訪れます。


ですが、変化は好転ばかりではありません。119番と通話が繋がっても、被害の大きさを教えられ、救助の手が回りきらない現実を突きつけられるばかり。ようやく声が届いたのに、応えてもらえない絶望を味わいます。

友達や家族と連絡がつくと、厳しい状況に置かれた主人公を気遣う言葉などがもらえます。その反応に一時救われますが、時間が経過して物資が減る一方で、救援の目途も立たない状況が、主人公を追いつめていきます。


そのため、主人公が諦めの言葉を吐くこともあり、友人や家族が辛い思いを味わうといった場面も。通話の向こうで無力感に苛まされている人々の心境を思うと、プレイヤーとして心を痛めるばかりです。

かといって、主人公を責める気持ちにもなれません。崩壊したビルのエレベーターに閉じこめられ、食料は減っていき、助かるかどうかも分からない。嵩が増すばかりの絶望に、押しつぶされない人間はいません。誰も悪くないのに、誰もが苦しい。これも災害がもたらす現実のひとつなのでしょう。

こうした被災者側から描かれる物語は、ゲームという架空世界ながらも、新たな気づきや視点が得られる体験でもありました。その点について本作は、決して浮ついたところがなく、地に足のついた描写による貴重なプレイ体験を用意しています。


なお前述の通り、プレイ体験を損なうとの理由から、ここまでネタバレを極力避けてきました。それは、本作のゲーム性・物語ともに、ネタバレが体験の質を大きく落としてしたうためです。ですが、本作が持つ重要なポイントであろう特徴をお伝えするため、ひとつだけネタバレするのをお許しください。

本作は、ゲームパートをクリアすることで、ひとつのエンディングへと辿り着きます。少し言い換えるならば、本作には「ひとつのエンディング」しかないのです。

リソースの管理は多岐に渡りますし、会話の内容や状況変化のタイミングはプレイヤーの進行で変化もします。ですが、ゲームクリアまで辿り着くと、そこから先の物語はひとつのみ。


サバイバルゲームの中には、プレイの成果によってエンディングが変わるものも珍しくありません。むしろ、プレイ満足度や手応えを提供する手段として、優れた手段とも言えます。ですが本作は、“ただひとつだけのエンディング”だけを提示する道を選びました。

果たして主人公は生きのびたのか、周囲の人間はどうなったのか。その全ては作中で明確に描かれており、そして何度プレイしても変動しません。これを、「ゲーム的に物足りない」と感じる方もいるでしょうし、それは決して間違った意見ではありません。

ですが、“ただひとつだけのエンディング”に絞ったことに意味があると、本作のプレイを通じて筆者は受け止めました。『サバイバーズ・ギルト』の体験はあくまで架空のものですが、現実世界で災害がもたらす影響は不可逆。物理的に失われたものや精神面のダメージは、時間をかけて復興したり癒えることはあっても、被災前とまったく同じ状態には戻りません

ゲームならば、やり直すことで救われる命もあれば、残酷な事態を回避する新たなルートが見つかることもあります。ですが、現実世界に「たられば」は存在しません。あの時こうしていれば……といった後悔は、どんな道を選んでも残ります。


「ゲームクリア」と「ひとつの結末」を結びつけ、未来を固定させた『サバイバーズ・ギルト』。本作の在り方は、選択という意味では幅が狭く、窮屈かもしれません。ですが、プレイヤーを阻んでいる壁は「ゲーム」ではなく、「災害」や「厳しい現実」だと、暗に示しているのではと感じました。

現実世界の未来は、いつでもひとつきり。5分後の未来は、5分経過した時に決定し、揺らぐことのない「現実」になります。それが、私たちのいる「窮屈な世界」です。しかし、5分後の未来に対して今動けば、何もしなかった場合に対して、その形を変えることはできます。

未来は決定してしまえば、やり直しが許されない「現実」になる。けれど、未来であるうちは、変化させることが可能です。現実は揺るがず厳しいけれど、未来は決まっておらず、備えることができる。日々の備えや防災意識―例えささやかなものでも、未来を左右できる力となる可能性は十分にあります。

『サバイバーズ・ギルト』で描く未来……すなわちエンディングは、既に決まっており、不変です。だからこそ現実世界にはまだ「ゆとり」があることを、今回教えてもらったように思います。


災害時におけるライフラインのひとつとして見直された向きもあり、公衆電話は今も残っていますが、減少傾向を覆すほどではありません。公衆電話を見かけるたびに、2011年3月11日を思い出していた筆者ですが、その機会もまた減りつつあります。

ですがこれからは、スマホ画面にある『サバイバーズ・ギルト』のアイコンが、あの日を思い出すきっかけになってくれることでしょう。



最後になりますが、『サバイバーズ・ギルト』のプレイについて、被災経験のある方はご一考ください。実体験を思い出す可能性が十分にあるので、慎重なご判断をお願いします。

本作を通して得られる知識や体験があるため、防災意識の観点から見ても、被災経験がない方ほどお勧めできます。特に、タイトルにもなっている「サバイバーズ・ギルト」の意味をまだ知らない場合は、この機会に理解を深めてみてはいかがでしょうか。

《臥待 弦》

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