「P丸様。」3Dアバターお披露目と別名義活動の波紋―バーチャルは生まれ変われる

過去のしがらみ吹っ切った「P丸様。」が拡大し続ける表現の世界を、これからもっと期待して見届けたいところです。

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「P丸様。」3Dアバターお披露目と別名義活動の波紋―バーチャルは生まれ変われる
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YouTubeチャンネル登録者数は200万人を越え、投稿動画は軒並み数十万再生という人気マルチエンターテイナーの「P丸様。」のあるツイートが、話題になっています。

3Dのボディを手に入れ、9月30日に実施したお披露目ライブで初めて、歌ったり踊ったりする姿を生配信で見せた「P丸様。」。その後に両国国技館でのバーチャルライブ開催決定の告知もあり、明るすぎる今後の活動にファンもコメント欄で大歓喜の声を上げていました。

もともとはマンガ風のイラスト動画投稿を行っていたP丸様。なので、ライブという展開自体に驚いた人は非常に多かったようです。オリジナル曲「シル・ヴ・プレジデント」が大ブレイクし波に乗っていることもあり、“アイドルとしてのP丸様。”にも注目が集まっていたところでした。

ここまではみんな笑顔でいっぱいでした。しかし、その後に“楽しくないお話し”がツイートされると、ネットに波紋が広がります。

その内容はP丸様。ではない名前での活動時。大人たちとの契約がうまくいかず、怖くてその活動ができなくなってしまったとのこと。「P丸様。」としての活動も禁止されてしまい、心が折れてしまったそうです。

色々な推測がありますが、その別名義の活動が何かは明言されていないので、本記事では触れないでおきます。また大人との契約トラブルについても、あくまでもP丸様。の発言以外の確認手段がないので(悲しすぎる話でハラハラはしますが)触れません。件のツイートを読んだ上で、各々で受け取ってみてください。

やりきれない話題ではありましたが、同時にいまP丸様。が生き生きと活動できているのは、バーチャルで新たに光明を掴んだからだという裏付けともなる、前向きなものでもありました。そのためファンからは、数多くの応援の声が上がっています。

バーチャルの世界へ帰ってこれた。やりたかった活動を自由にチャレンジできる。いまP丸様。とファンの目の前には、両国国技館のリアルライブへの期待と、バーチャルボディでの新しい活動の可能性が広がっています。

アバターが違えば存在は異なる

P丸様。がツイートで述べていた、並行して行っていた別名義のバーチャル活動(「帰ってこれて」発言があるため)は自身を指すものではありません。あくまでもそのバーチャル活動の存在と、「P丸様。」としての存在は完全に別人格扱いです。

ツイートには大人たちとの契約の話も出ています。P丸様。はその組織の中で、タレント・アクターとして、大勢の中のひとりとしてプロジェクトに携わっていたようです。こうなると「バーチャルキャラクター=P丸様。本人の存在」ではなくなるので、どうしても活動に制約が生まれてしまいます。

例えば声優の春日望は以前、キズナアイとの関係について明言する動画をアップしていました。これを見ると「バーチャルキャラクターとアクターの違い」が見えます。

「私はキズナアイちゃんではありません。私は私。アイちゃんはアイちゃんです」キズナアイというバーチャルな存在のために、声を貸してあげている(なので台本のある声優とも違う)、というのが彼女のスタンスです。これは企業型VTuberならではの珍しい形態。

現在の一般的なVTuberは、アクターの意思が活動で最優先されます。そのため企業運営の場合、アクターのやりたいことと企業のやりたいことが噛み合わないと、歪みが生じやすくなりがちです。

ある別のVTuberは“議会”のようなものだと例えていました。アクターの考えはあくまでも一意見で、運営の意見やエンジニアの意見がそれぞれあって、すり合わせて合意を得た上で採決する、全員がVTuberの一部である、という状態です。このやり方はうまくいけば、企業を牽引するだけのキャラクター性を持った存在を、ちょっとしたことでは崩れない強固なものとして作れるメリットがあります。

P丸様。の話に出てくる、契約の無断変更やお金の未払いなどはあるまじき問題として、それ以外の“キャラクター性のすり合わせ”や“楽しくやることと企業的優先事項のバランス取り”は、解決がものすごく難しい部分です。

だからこそ今回、P丸様。が今までの悩みを告白し、自由に、自身の意思で生まれ変わったことには多くの人の祝福がありました。ここまで本人が自身の表現がうまくできず、苦しい思いをして耐えてきたにも関わらず、バーチャルの世界に帰ってきて活動したいと決断した「P丸様。」。それだけ言えなかった部分でのバーチャル活動が好きだったのだと、十分すぎるほど伝わってきます。

P丸様。は動画で、「中の人は女」「P丸様っていうものは何にでもなれるって言う自分の願望があって」とも語っています。固定された存在というよりも「P丸様。」という概念に近いようです。どの動画も非常に自由で、定義するのがナンセンスなくらい、その表現は枠組みに囚われていません。

バーチャルはやり直せる

完全に別人格としてやり直せるのが、バーチャルのいいところです。一度何らかの形で挫折したり引退しても、別のバーチャルアバターで活動することで、過去の存在をリセットをすることができます。それができるのは、視聴者に別人格だという暗黙の了解があるからです。いわば、人形劇をやる際にアクターが狼と村人を別々に演じたからと言って「狼=村人」にならないのと同じでしょう。

バーチャルの姿は、表現活動以上にキャラクター性が縛ってくるような不自由なものではありません。自身の表現としての可能性のレイヤーを増やしていくものです。だからこそP丸様。は別の活動について、深くは触れすぎずスパッと終わらせました。ファンもそこは尊重しており、レスも「話してくれてありがとう」「応援しています」がほとんど。過去について触れていません。バーチャル性を理解した、理性のあるかなり高度な、粋なやり取りです。

バーチャルでやり直したP丸様。の3Dライブを見れば、心からの“楽しい”をそのまま受け取りたくなります。「楽しい以外のものを届けたり伝えたりするのは凄く苦手」というP丸様。が力いっぱいに思いを伝えてきてくれるのだから、このライブはP丸様。にとっての“楽しい”ことなのは間違いないはずです。ならばこちらも、過去のしがらみ吹っ切ったその決意を知った上で、はいおしまい!と切り分けるのが礼儀でしょう。

一応今回のP丸様。は“バーチャルなアバター”であってVTuberと銘打ってはいません。とはいえ、VTuberと同じ次元(システム)に再び並んだ、というのは気になるところです。今まではマンガ形式ショート動画がメインだったため、次元(手法・システム)が別なのもあって混じり合わなかったのですが、今後はフラットに並ぶことができるようになります。

あるかどうかはわからないですが、例えばVTuber・キズナアイとマルチエンターテイナー・P丸様。が同じ舞台に立って歌う可能性もゼロではなくなりました。P丸様。がどんどん拡大し続ける表現の世界を、これからさらに期待して見届けたいところです。


《たまごまご》

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