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「カービィ」といえば、あの丸く可愛いフォルムと共に、代名詞と言えるほどイメージが定着した「コピー能力」を思い出す人も多いことでしょう。
ですが、カービィがコピー能力を身に着けたのは、ファミコンソフト『星のカービィ 夢の泉の物語』から。シリーズ1作目の『星のカービィ』では、敵を「吸い込む」、食べたものを「吐き出す」といったアクションはありましたが、敵の能力をコピーすることはできませんでした。
今やカービィにとってなくてはならない「コピー能力」が、果たしてどのような経緯で誕生したのか。カービィの生みの親であり、2000年代前半まで本シリーズの開発にあたった桜井政博氏が、当時の制作背景を明かしました。
■『星のカービィ 夢の泉の物語』は、なぜファミコンソフトだったのか
シリーズの原点である『星のカービィ』は、ゲームボーイソフトとして登場します。軽く補足すると、ゲームボーイは任天堂がリリースした携帯型ゲーム機です。当時は、ゲームソフトを入れ替えられる携帯ゲーム機はかなり珍しく、多くのゲームファンを驚かせました。
しかしゲームボーイはモノクロ表示だったため、ゲーム画面はどうしても地味になりがち。それを理由に売れ行きを懸念する声もありましたが、数多くの名作に支えられたゲームボーイの販売台数は順調に推移。もちろん『星のカービィ』も、力強く支える1本として活躍しました。
そんな『星のカービィ』が1992年に登場し、その翌年に『星のカービィ 夢の泉の物語』が発売されました。本作はファミコンソフトなので、画面は当然カラー。鮮やかな色彩をまとったカービィたちがブラウン管の中で躍動する姿は、1作目のファンにとって非常に刺激的でした。
会社から打診を受けた桜井氏が『星のカービィ 夢の泉の物語』の企画を開始したのは1992年。すでにスーパーファミコン(1990年発売)が普及していた時に、ファミコン向けのゲームを開発した形になります。
この件について桜井氏は、「スーパーファミコンのソフトは、開発環境を整えるだけで時間がかかってしまう」「すぐに作って、すぐに売りたかったからでしょう」とコメントしており、そうした背景からファミコンに照準が絞られた模様です。
当時のハル研究所(「星のカービィ」シリーズの開発元)は、和議申請を行い、借金を毎年返し続ける立場にありました。その経営状態を鑑みると、フットワーク良く開発できるファミコンソフトの方が助かる状況だったのでしょう。
■成熟したファミコン市場だからこそ生まれた「コピー能力」
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桜井氏は、1作目の『星のカービィ』を「初心者向け」というコンセプトで開発しました。ですが2作目を作るにあたり、このコンセプトは「スーパーファミコンならまだしも、ファミコンでは通用しない」と考えます。
一見すると、ハードの性能が上がったスーパーファミコンの方が上級者向けで、比較すればシンプルなファミコンは初心者向け、という印象を覚えがち。そうしたイメージを当時持っていた人も少なくないでしょう。
しかし桜井氏は、この時点でファミコンの市場が熟しきっていると判断。おそらく、ずっとファミコンを遊んでいる方は腕前がかなり上達しており、一方新たにゲームに興味を持った新規ユーザー=初心者は、ファミコンではなくスーパーファミコンを選ぶと考えたものと思われます。
ファミコンから入る初心者は少ないと予想した桜井氏は、「初心者」と「上級者」のいずれも満足させるという課題を『星のカービィ 夢の泉の物語』で自らに課し、その結果として「コピー能力」に辿り着いたと明かしました。
まず、アクションゲームやシリーズに慣れてない初心者に向けて、「吸い込み」と「吐き出し」だけで最低限クリアできるように調整。同時に、コピー能力を使いこなすという手応えと新たな楽しさを上級者向けに提案し、その両立を見事な形で成功させました。
熟成期に入ったファミコンに向けた開発だったからこそ、初心者と上級者、どちらのニーズにも応える作品作りを目指した桜井氏。その答えが、『星のカービィ 夢の泉の物語』で初めて生まれた「コピー能力」でした。
こうした『星のカービィ 夢の泉の物語』の開発秘話は、YouTube公式チャンネル「桜井政博のゲーム作るには」の「星のカービィ 夢の泉の物語」編で綴られています。
今回取り上げた内容以外にも、桜井氏が当時書いた企画書の一部を公開していたり、画面構成の違いによる影響や収録されたミニゲームについて言及するなど、興味深い話が続出。興味が沸いた方は、そちらも併せてご覧ください。