自身の5年間をマルチバースな世界へと描きなおした「叶 1st Concert『午前0時の向こう側』」ライブレポート

VTuber事務所・にじさんじに所属する叶(かなえ)さんによるソロイベント「叶 1st Concert『午前0時の向こう側』」のライブレポートをお届けいたします。

配信者 VTuber
自身の5年間をマルチバースな世界へと描きなおした「叶 1st Concert『午前0時の向こう側』」ライブレポート
自身の5年間をマルチバースな世界へと描きなおした「叶 1st Concert『午前0時の向こう側』」ライブレポート 全 69 枚 拡大写真

にじさんじからデビューし、現在VTuberとしてもトップの人気を誇る叶(かなえ)さんによる初のソロイベント「叶 1st Concert『午前0時の向こう側』」が、2023年3月16日にグランキューブ大阪・メインホールにて開催されました。

2018年5月2日にデビューして以来、物腰柔らかい印象と声色で「リスナーを驚かせたり笑ってもらうためには?」と様々な形で行動しつづけ、多くのファンを得てきた叶さん。

毎日のゲーム配信を通して面白トーク・ゲームプレイを見せてくれるだけでなく、同僚でもある葛葉さんとのユニット・ChroNoiRとしての活動では、2人でのゲーム配信・企画動画・オリジナルアルバムなどを発表。“にじさんじの顔”として様々なイベントや企画にも参加するなど、ルックスからはうかがい知れぬほどの精力的なバイタリティで活動し続けてきました。

2022年5月1日にはアニメ・ゲーム関連の音楽レーベルとして知られるランティスからアーティストデビューを果たし、現在までの「flores」「夜明かし」と2枚のEPを発表し、ストリーマーという側面だけでなく、シンガー・アーティストという側面も見せ始めています。

そんな注目を集める彼による初のソロイベントということもあって、どのようなライブパフォーマンス・内容となるかが大きく注目されることになりました。

叶 1st Concert「午前0時の向こう側」ティザートレーラー
叶 1st Concert「午前0時の向こう側」テーマソング「針音」(読み:しんおん)

これは 眠れぬ夜に起きた
僕の「いくつかの可能性」の物語
キミを連れて行こう 午前0時の向こう側へ
(ティザートレーラー動画概要欄より)

イベントの公式サイトやティザートレーラーを見てまず勘づくのは、このライブにはストーリーが提示されているということ。さまざまな「叶」が音楽とともに表現されていることが示唆されており、このコンサートに際してテーマソングも制作されるほどです。

さて、ここまでの文章で、ライブ・イベント・コンサートとあえて表記揺れしてきたのはお気づきになったでしょうか。ニュアンスに些細な違いがあれど、今回のレポートで呼称するとすれば「コンサート」でしょう。

端的に言えば、叶さん自身が描きたい物語・メッセージが詰め込まれた内容となっており、そういったニュアンスを多く含んでいるからこその「コンサート」が相応しいと筆者は考えます。

軽やかにコンサートは始まらない?「謎の人物」の登場にトラブル発生!

開演前、ステージ上のモニターには現在時刻を示した時計と、音を鳴らして動き続ける秒針が映し出され、長針はライブ開始となる18時に向かって刻一刻と時を刻んでいました。

開演前アナウンスを務めるのは叶さん本人。優しく笑い声も混じったアナウンスですが、アナウンスを終えると物語へと通じるようなセリフを話し始めます。

18時になるとティーザー映像が流れ始め、時計の針はいつの間にか午前0時をさしました。1曲目はデビュー曲である「ブロードキャストパレード」からスタートします。

ステージのセンターに登場したのは白いロングマントが特徴的なアーティスト衣装の叶さん、ステージ上段両サイドのダンサーは白いシルエットになっていて、見てみると過去に3Dビジュアル化してきたさまざまな衣装・姿のようです。

軽やかで華やかなデビュー曲を意気揚々と歌っていく……するとサウンドや声にノイズが入り、音楽がピタっと止まります。「え……?」と驚いた声をあげてすぐに、白いアーティスト衣装の叶さんはピタリと動きを止めてしまいました。

すると舞台の下手から黒を基調にした花柄シャツを着た叶さんが登場し、独白を始めます。

「よくあるよね、こういう夜。ふと時計を見たら、針がちょうどをさしてる」
「人生、いやなことなんてザラにあるけど、できればすぐに忘れたい」
「きみは『楽しい』を見つけられたかい?いまの自分に満足してる?」
「これは可能性の話。終わった今日を越えて、新しい明日へ進めるか、それとも同じ毎日を繰り返し続けるか」

黒服の叶さんは、白衣装の叶さんへ、そして観客へと問いかけます。Live2Dで見せていた最新ビジュアルが3Dビジュアルとして出てきたことに目が奪われそうになりますが、ここまでの展開で「なぜライブではなくコンサートなのか?」というのが十二分に伝わってくるでしょう。

その後、歌い始めたのは「Midnight Showcase」です。エレクトロ・スウィングなトラックにやや早口な歌詞、リズムが一気に半分に落ちてググっと遅くなるパートもバチっと歌いあげます。マイクスタンドを使って歌う様は、ショーマンのようです。

続いて歌うのは「ANEMONE」始まりから終わりまで軽い振り付けをこなしながら歌っていきます。

歪みの中で戸惑い彷徨いながら
心の表面に刺激していく
無数の人混みに飲まれようとも
いつかの君は僕を見つけ出す
美しい毒を浴びたまま
永遠に続く愛を
(「ANEMONE」より)

歌詞だけ読めばラブソングのように読めなくもありませんが、このコンサートのなかでは「喪失したアイデンティティ」「絶え間ない自己言及とすり減るメンタル」といったイメージが読み解けます。


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《草野虹》

福島・いわき・ロック&インターネット育ち 草野虹

福島、いわき、ロックとインターネットの育ち。 RealSound、KAI-YOU.net、Rolling Stone Japan、TOKION、SPICE、indiegrabなどでライター/インタビュアーとして参加。 音楽・アニメ・VTuberやバーチャルタレントと様々なシーンを股に掛けて活動を続けている。 音楽プレイリストメディアPlutoではプレイリストセレクター(プレイリスト制作)・ポッドキャストの語り手として番組を担当している。

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