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スクエニの『パラノマサイト FILE 23 本所七不思議』や任天堂のリメイク作『ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者・うしろに立つ少女』など、20年代に突入してもコンスタントに話題作やリメイク、移植作が登場するアドベンチャーゲーム。2023年初頭に筆者が新ジャンルを開拓しようと思い挑んだのが、このジャンルでした。
筆者がADVに強く興味を持ったのは、たまたま買ってみた『かまいたちの夜 特別編』解説書の「原作者より」で記載された一文からでした。小説は古い作品でも現代まで読み継がれていることや、映画の世界でも古い作品が繰り返し上映される機会があることに触れ、「サウンドノベルはそういった意味で、映画に近い寿命をもっているのではないか」と述べられており、サウンドノベルという枠をADVやノベルゲームまで広げてみると「映画に近い」という観点は何となく実感が持ちやすく、他にもプレイしようという気持ちが湧いてきたからです。
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そこで、2008年の発売当時に友人がよく話題に挙げていた『CHAOS;HEAD(カオスヘッド)』を今更ながら触れてみようと思い、2022年10月にSteamでリリースされたことで意欲が湧き、完全版の『CHAOS;HEAD NOAH(カオスヘッドノア)』をプレイしてみました。舞台が2009年の渋谷なため当時の時代性が強く反映されており、死語になりやすい当時のネットスラングなどが用いられたりするのですが、何故か遊べてしまうのに驚いたのです。後にプレイした『STEINS;GATE(シュタインズ・ゲート)』や『サウンドノベル 街 -machi-』も同様でした。
本稿はオリジナル版発売から10年以上経過したADV作品の時代性にスポットを当て、今の視点からみると如何なる部分が面白いのか、何故受け入れてしまうのかを語るコラムです。なお、アドベンチャーゲームとノベルゲームの境界はとても曖昧であるために、ここではテキスト主体で語られる内容のゲームを全てアドベンチャーゲーム(以下、ADV)として扱います。
『サウンドノベル 街』や『CHAOS;HEAD(カオスヘッド)』などアドベンチャーゲームに表れる時代性
98年1月にセガサターンで発売された『サウンドノベル 街 -machi-』(PS版は『街 ~運命の交差点~』)は、当然のことながら90年代後半の渋谷を舞台にした実写ADVです。プレイヤーは、渋谷の端々で絡み合う雨宮桂馬と牛尾政美、馬部甚太郎、篠田正志、市川文靖、飛沢陽平、高峰隆士、細井美子の8人それぞれの行動を選ぶことと、他シナリオへのザッピング(ジャンプ)で物語が進行します。
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90年代後半に開発されたタイトルであるために、各登場人物が使用するアイテムも必然的にその時代に則したものです。ゲーム開始時に時代が違うことに気付く点といえば、ゲーマー刑事の雨宮桂馬編で桂馬がガイという人物とチャットするために小型ノートPCのLibretto20を、ISDN回線の公衆電話(電話ボックス)でネットへ繋ぐ場面でした(シナリオ2日目には彼が追う犯人から送られたメールを開くために携帯電話を借りて受信するシーンもある)。
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また、プロットライターの市川文靖編で、彼が原稿を書く時に使う一体型のMacintosh SE/30が登場することに加え(このMacは1989年発売なので少なくとも5年以上愛用していることになる)、シナリオ2日目で渋谷への心象を語るのも強い時代性を有しています。
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これらの時代性はテクノロジーだけでなく、設定や街の風景にも表れています。舞台となる渋谷に関しても無関係ではありません。桂馬編において渋谷のゲームセンターを数多く言及していますが、それらは2023年にほぼ無くなってしまっていますし、何より他のシナリオでも登場する商店や建物、街を走る車、照明を含めた風景が様変わりしてしまっているため、25年という時の経過を否が応でも認識してしまいます。
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これは2009年の渋谷が舞台となる科学アドベンチャー第1弾の『CHAOS;HEAD(カオスヘッド)』も同様。ホラーサスペンス要素を含んだ『CHAOS;HEAD(カオスヘッド)』は、渋谷のビル屋上のコンテナに住む引きこもり一歩手前の高校生である主人公西条拓巳(以下、タク)が、渋谷で起こる連続猟奇殺人事件「ニュージェネレーションの狂気」に巻き込まれるという物語です。
この物語の発端は、チャットルームにおいて“将軍”と名乗る人物が貼り付けた画像URLをタクがうっかりみてしまったことでニュージェネ事件に巻き込まれるのですが、そのチャットルームの姿がかつて多く使われていたレンタルチャット風な見た目であり、現代からみるとレトロ感を感じてしまうのです。
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またタクが情報収集で使う為に閲覧する、かつての巨大掲示板「2ちゃんねる」を彷彿とさせる「@(アット)ちゃんねる」の描写や、各ニュースサイトのレイアウト、彼が使うネットスラングやミームなど、今では失われてしまった(古くなり使わなくなってしまった)時代の名残があります。背景で描かれる渋谷の描写もより現代に近くなりますが、それでも渋谷駅前からモニュメントの展示車両「青ガエル」が秋田へ移送されて現在無くなってしまったことや、駅のホームそのものも変わってしまっています。
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一方で現在も含めて風景が大きく変わっていない場所と言えば、『サウンドノベル 街』と『CHAOS;HEAD(カオスヘッド)』にも登場する松濤公園でしょう。2021年には同公園のトイレが改装されているものの、公園そのものに大きく手が加えられているわけでもなく象徴的な水車もそのままだからです。
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『STEINS;GATE(シュタインズ・ゲート)』でも同じように時代を感じます。これは2010年の秋葉原を舞台に主人公の岡部倫太郎(以下、オカリン)を筆頭とする、未来ガジェット研究所のラボメン達が発明した電話レンジ(仮)が、一定条件下で過去へメールを送信できるタイムマシンであると発覚したことで物語が本格的に動くというものです。
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物語の重要なアイテムとなる電話レンジ(仮)を使うためには、携帯電話からメールの送信を送る必要があるのですが、その時に使う端末の形状をよく見るとテンキーが着いたストレート型。オリジナル版では着信メロディや壁紙の設定、そして仲間とのメールによるメッセージのやり取りなど(短文の会話メールにおいて「Re:Re:Re:Re」と連なる場面もある)が繰り広げられるのですが、UIも含めて今日においてその時代が過ぎてしまったことを強く実感させられます。
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舞台となる秋葉原そのものも、渋谷と同じように約14年の歳月とコロナ禍を経て街そのものも大きく変化したことで、2010年の面影はほぼ無くなってしまっています。特に本作と秋葉原の象徴とも言える、人工衛星が突き刺さったラジオ会館は現実の2010年の時点で建て替えが決まっており、原風景が消える前にリリースできたタイトルであることを思い起こさせます。
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ADVにおいて過去と現在を繋ぐTIPS機能―伝えるのが難しい当時のニュアンス
ここまで作品ごとの時代性について述べてきましたが、古い時代のアドベンチャーゲームについて予習をしなくても内容を理解し遊ぶのに問題ないと思えたのは、このTIP/TIPSがあったからでした。文中の単語を説明する機能のTIPは、作品のリリースから10年以上経過した現在でも機能していると思えます。
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このTIPにも時代性は表れており、例えば『サウンドノベル 街』の篠田正志編で正志が青ムシこと青井則生を騙す過程で言及されたコミケ(夏コミ)の解説においては「開催地はまちまち」と記載されていることから、1996年のコミケ50で東京ビッグサイトに落ち着くまで、様々な会場を渡り歩いた流浪のイベントであったことなど気付かされます。
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また、高峰隆士がフランス外人部隊で勤務についていたジブチについてのTIPは、当時においてジブチと日本の関係が薄く知る人の少ない国として紹介。2023年現在では、海賊対策を目的とした自衛隊拠点が建設されており、少なくとも90年代よりか関係がある国であることを思うと、その解説からこの時代において一般認識がどうであったのかがわかります。
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TIPを読んでいけば自然とその時代を知れることに繋がり、登場人物達の行動や内面を理解できます。冗談めいたものもあるため全てを鵜呑みにできませんが、補足説明として25年経った今でも通用すると思えたのです。
『CHAOS;HEAD(カオスヘッド)』や『STEINS;GATE(シュタインズ・ゲート)』でもTIPSは活用されています。登場人物の喋る言葉や語りにおいて発生した事象や原理の説明を行うことは『サウンドノベル 街』と同じですが、特にネットスラングについても説明するのはこの時代ならではでしょう。
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また『STEINS;GATE(シュタインズ・ゲート)』は、より科学的な事柄を突き詰めた作品であるためにTIPSの科学的説明も充実していますが、14年の歳月を感じさせるものは多くあります。例えば、宇宙におけるブラックホールが2019年に観測され重力理論が検証されたことや、一般相対性理論と量子力学を用いた研究結果としてブラックホールに“事象の地平面は存在しない”という新たな説を照らし合わせてみると、科学の進歩というのを実感してしまうのです。
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ここで少し時代性を孕んだネットスラングについても触れましょう。『CHAOS;HEAD(カオスヘッド)』の主人公タクは、ネットスラングをそれなりに使うキャラクターなのですが(常にスラングで喋っているわけではない)、多少誇張されているもののタクを演じる吉野裕行さんの演技によって、一部誇張されていますが当時どのように喋られていたかを現代においても伝えられているのが驚異的ですし、時代性を今に残していると思えます。
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一方『STEINS;GATE(シュタインズ・ゲート)』でのスラングは、なるべく会話に沿って意味が通るよう自然に挿入されており、内輪受けを狙ったような会話でないことと、登場人物の1人である橋田至ことダルがスラングを嬉々として喋るキャラでないことも、2023年にプレイしてみて受け入れやすかった要素の一つです。
しかし、本編前半まで繰り返されるオカリンの中二病トークは本編や前作などに絡むものならまだしも、本筋に関係無いものも多く、聞き続けるのが厳しいと思うところもありました。
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名作ADVは小説と同じように古くても楽しめる―過去と現在のADVを繋ぐためには
今回『サウンドノベル 街』や『CHAOS;HEAD』、『STEINS;GATE』などを古いADVをプレイし、ストーリー性が強い作品は時代性のハードルを超えられれば、物語の面白さを十分に味わい尽くせるということでした。
「古いゲームを今遊んでも面白いのか?」という疑問はどのジャンルでも付いて回ります。少なくともアドベンチャーゲーム(ノベルゲーム)に関しては、開発時期の時代性が強く現れるものの、TIPS(解説)があれば発売から時間が長く経過しても、物語を受け入れる知識が自然と得られて楽しめる、というのが1つの発見です。
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筆者は、アドベンチャーゲームジャンルについて造詣を深める段階にありますが、『CHAOS;HEAD(カオスヘッド)』や『サウンドノベル 街』をプレイして物語が佳境に入ると、時間を忘れて没頭してしまう経験を久々に味わいました。
特に心を惹かれたのが『CHAOS;HEAD NOAH(カオスヘッドノア)』です。ホラー要素強めな作風であるためタクがニュージェネ事件と”将軍”による不安に悩まされながらも、タクが自身の孤独と向き合いつつ、事件を複数の視点から追求し明らかになる展開が面白く、時代を感じながらも最後まで興味を失わずにプレイ出来たのが嬉しかったのです。あまりに心に刺さったことから完結編とも言える『CHAOS;HEAD らぶChu☆Chu』もXbox 360版でプレイしてしまったほどでした。
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またアドベンチャーゲームに向き合ってちゃんとプレイしてみると、小説に近いようでそうでない、グラフィックとUI、そしてサウンドが合わさり、プレイヤーが物語を自分で進めるゲームであることをより強く意識させられました。
ただ、名作と謳われた作品でもPC/現行機へ移植されていない作品が多く存在します。2023年で25周年を迎えたコアな人気を持つ『サウンドノベル 街』はその筆頭でした。
PS/PSP/SS版を生活圏の関東で探したもののなかなか見つからず、最終的に名古屋へ旅行した時にSS版を見つけられましたが、所有していたセガサターンが壊れたことが発覚したため、ハード的にも遊べる環境が経年劣化で駄目になる厳しさを感じざるを得ませんでした(結局、新たにSS本体を買い直してプレイした)。
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そのため、『サウンドノベル 街』を筆頭とした他のスパイク・チュンソフトのサウンドノベルシリーズの、移植かHDリマスターがあって欲しい気持ちは隠しきれません。様々な形であれ近年ADVジャンルに注目が集まりつつあるため、過去と現在を繋ぐためにクラシックな名作ADVがPC/現行機へ移植されればと思ってしまいます。