
コンビニエンスストアのマルチコピー機でいつでもボードゲームを購入できるサービス「コンプリボドゲ」。
WAZA gamesとイードが主催のする本サービスのコンペティション「コンプリボドゲコンペ2024」において、『City of Noerdlingen (シティー オブ ネルトリンゲン 以下、ネルトリンゲン)』が最優秀賞を受賞しました。
本作は3~4人でペンだけで手軽に遊ぶことができ、奥深いルールとリプレイ性の高さが特徴の陣取りゲームです。本稿では、そんな『ネルトリンゲン』のルールデザイン/アートワークを担当するPlan E・ヤマウチ氏と、ルールデベロップメント/ルールライティングを担当するForGames・郡山喜彦氏へのインタビューをお届けします。
◆コンプリボドゲがなかったら世に出ていなかった…?
――本日はよろしくお願いいたします。はじめに、お二人のこれまでの経歴をお聞かせください
ヤマウチ私は10年ほど前にボードゲームを作り始めました。制作中に知り合った方々からアートワークをお願いされるようになりまして、並行して制作も続けていました。『ネルトリンゲン』は5年ぶりくらいの新作だったのでようやく日の目を見た、という感じですね。
郡山2014年から個人的な創作活動をしていまして、「一年中未来」という名前で活動をしていました。2年前からはForGamesという企業として一般流通するようなボードゲーム制作に携わっています。
――お二人はこのゲームのために集まったのですか?
ヤマウチ私から郡山さんにデベロップをお願いしました。私はテストプレイを沢山して、ブラッシュアップしていく、みたいなのが苦手でして、デベロップとルールライティングを郡山さんに任せることにしました。
――今回、コンプリボドゲに応募したのはどのような理由ですか?
ヤマウチそもそも、ゲーム自体は5年ほど前にポスターゲーム(ポスター紙1枚でできるゲーム)を作ろうと思って始めたものです。ただ、ある程度の形にはなっていたんですが、諸事情で制作が止まっていました。
そんな中でたまたまこちらのコンペがあったので、「あれ、行けるじゃん」っていうので再度作り始めました。
――奇跡的なタイミングでコンペが始まったんですね。
ヤマウチそうですね。もし無かったら世に出ていなかったかもしれないです。
――ネルトリンゲンといえば、ドイツの城塞都市ですよね。本作の着想はここからきているのですか?
ヤマウチ実は全然関係ないんです。壁を作っていく陣取りゲームというイメージから、城塞都市を調べて、1つたまたま選びました。
――では着想はどこから?
ヤマウチ『QIX(クイックス)』というタイトーが出していたアーケードからです。これは自機で線を引っ張って敵の攻撃を避けつつ自分のエリアを増やしていく陣取りゲームで、完成したエリアの上に自機がある間は敵の攻撃に当たっても大丈夫だけど、線を引っ張って領土を拡大しているときに攻撃に当たると死んじゃうんですね。
これってすごくボードゲームっぽいんです。
――ボードゲームっぽい?
ヤマウチなるべく一気に大きく陣を取りたいので線をずっと引き続けたいんですが、長く線を引くとそれだけ敵キャラにやられる可能性が高くなるんです。
その辺りの考え方がすごくボードゲームっぽいなと思っていて、そのままボードゲームに持ってきたら面白いものになりそうだなと。そこから、このゲームが始まりました。
――なるほど。リスクとリターンの塩梅が良いということですね。
ヤマウチそうですね。『ネルトリンゲン』では「長い線を選ぶと手番が後ろになる」というルールにしているのと、「短い線ほど陣取りの判定のときに強くなる」という風にしています。短い線と長い線、結局どっちが強いんだろうという悩ましさがあると面白くなるかなと。
ヤマウチあとは、陣取りって対戦相手に直接攻撃する感じになることが多くて、遊んでいる人同士で仲が悪くなることが多いかと思います。『ネルトリンゲン』は、この手番順のおかげで直接やった、やられたみたいなところが少しマイルドになっているので、ちょっと遊びやすくなっているんじゃないかなと思います。
◆シンプルで潔い、額縁に飾りたいデザイン
――コンペの他の作品は華やかなデザインが多い中、本作はモノクロのシンプルなデザインですよね。なにか理由があるのですか?
ヤマウチモノクロの方が遊びやすくなるんじゃないかなと思いました。コンプリボドゲに出す前には色付きのものも作ったりはしていたのですが、本作はペンを使うので色がいっぱい入っていると書いているものが見えにくくなっちゃうなと。
ヤマウチあとはコントラスト高めでパキッとしたものを額縁に入れて飾るみたいな、そういうのでも全然見た目としては良いよなと思い白黒にしました。
――額縁で飾るボドゲ……面白いです。
ヤマウチ今回のコンプリボドゲ版はA4サイズで出したのですが、実はポスターゲームとしてヤマウチ版も出していて、それはA3で作っているんです。今回のコンペは「ファイルに入るもの」っていうテーマでしたよね。
そのテーマだったら、多分「持ち運ぶことを想定しているのかな」と思って、カバンに忍ばせて、ペンでそのまま遊べるようにA4サイズで出しました。
――ちなみに、デザインで影響を受けた作品はありますか?
ヤマウチ見た目に関してはCheapass gamesというアメリカのインディーズボードゲームパブリッシャーをリスペクトしています。私が初めて買ったボードゲームがCheapass gamesの『キルDr.ラッキー』というゲームなのですが、当時は白い段ボールに入っていて、段ボールの中もただ印刷しただけの紙が入っているものでした。
――シンプルで飾らない雰囲気の作品ですね。
ヤマウチやっぱり、グラフィックが凝ってなくても面白いゲームって面白いですよね。『ネルトリンゲン』もシンプルで遊びやすいし、潔さがCheapass gamesっぽくてかっこいいかなと思っています。
◆「日付をつかったランダム性」とコンプリボドゲの相性の良さ
――本作では、遊んだ日付で囲った土地の得点が変わるランダム性が審査員のお二人(ZUME氏、ミヤザキユウ氏)から評価されていました。このアイデアは、どのようにして生まれたのですか?
郡山元々僕がカレンダーを題材にしたゲームを作りたいと思っていたのですが、そこからアイデアを持ってきました。
ヤマウチマップにバリエーションがないとどうしても戦略が固まっちゃって楽しくないんですよね。
――29日とかはとんでもない得点になったりしますよね。
ヤマウチそうなんです。年末とかにかけてだんだん盛り上がっていきますね。
ZUME1回プレイするごとに飾って、後から「この戦いはこうだったな」って振り返れるなど、コンプリボドゲと相性が良いですよね。
郡山実はコンプリボドゲに応募するって決まった後にこのルールにしました。その前はプレイヤーが好きに点数を書くとか、それぞれのエリアの点数に比重を持たせてメリハリをつけるとか考えていましたね。
ヤマウチ割と最後の方に日付を使うことになった気がします。日付なら毎日違うし「これじゃん」と。
ZUME僕はプロデューサー的な観点から審査員として参加したのですが、こういった「日付ごとのランダム性」と「飾れるデザイン」がコンプリボドゲに合っていると感じ最優秀賞に推させていただきました。

――今回のコンプリボドゲへ向けた制作はいかがでしたか?
ヤマウチゲームデザイナーは今回みたいに縛りがあると喜んで面白いゲームを考えるような気がしていて、それが普段考えていないようなアイデアを出すきっかけになると思っています。なのでこれからも第2回、第3回とコンペを開いていってほしいです。
郡山コンペではアートワークが華やかな作品が多く応募されていて、『ネルトリンゲン』の受賞は難しいかなとも思っていましたが、受賞できて嬉しいです。コンプリボドゲならではの作品もたくさんあって意義深いものになっていたと思います。
――最後に、本作を遊ぶプレイヤーへメッセージをお願いいたします。
ヤマウチ久しぶりに作ったゲームが、郡山さんの尽力もあってものすごく面白いゲームができて、とても嬉しく思っていました。それがさらにコンペで受賞して面白いと思っていたのが自分だけじゃなかったっていうのがとても嬉しいです。
このゲームはボードゲームの面白いところがいっぱい詰まっていると思うので、ぜひ遊んでみてください。
郡山ForGamesはゲームデベロップを承っていて、ゲームデザイナーさんのアイデアをよりブラッシュアップして、広く楽しんでもらえる活動をしています。今回、そのひとつとして『ネルトリンゲン』が受賞できたことがすごく嬉しいです。
コンペという形式でもあり、ゲームをデザインするということがゲームを遊ぶ人にとっても身近に感じられたかと思います。次回があれば遊ぶだけでなく、ゲームデザインに挑戦してみるのも楽しいと思います。
――ありがとうございました!
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■体験可能店舗
【東京・リトルケイブ高円寺本店】
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