暑いです……。
ここ10年くらい、気温の移り変わりが極端じゃないですか?春と秋がほとんど無くて、夏と冬だけが交互にきている感じといいますか。
寒いなあと思っていたら、いきなり半袖を常備するくらい暑くなるんだから困ったもんです。
せめて『あつまれ どうぶつの森(以下、あつ森)の世界のように等しい間隔でメリハリ効いた四季にめぐりめぐってほしいのですが。
特に僕は沖縄在住なので、もうすっかり真夏の暮らしに移行しています。食卓にはそうめん選手が連続登板ですよ。
さて、『あつ森』に登場する虫や魚を紹介していく本コーナーですが、今週は「ムカデ」のお話をさせていただこうと思います。

なぜよりにもよってムカデかって?
「沖縄」が「アツい」って話をしていたら思いついちゃっただけなんですけどね。
そう。今、世間ではムカデがアツいのです。
ここでいう「世間」とは日本国民の1%程度のものかもしれませんが、とにもかくにも今、日本のムカデ界隈はまさに100年に一度レベルの盛り上がりを見せているのです。
なんと沖縄から「リュウジンオオムカデ」なる新種の巨大なムカデが報告されたのです。
この手の大型ムカデ(オオムカデ属)の新種が国内から記録されるのは実に143年ぶりのこと。しかも、日本人研究者が記載、発表するのは史上初の偉業だといいます。

こんな祭りが繰り広げられている今でなければ、いったいいつムカデの話をすればいいというのでしょうか。
ね?今でしょ?
大丈夫。ムカデは俳句の世界では三夏(5~8月)の季語ですから、季節感的にもタイムリーですから!

決して僕が個人的にムカデの話をしたいだけではありません。どちらかというと民意です。
『あつ森』のムカデは「トビズムカデ」
まず、ムカデと一口に言ってもいろいろな種類がいます。
では、『あつ森』に登場するあのムカデの正体は一体何者なのでしょうか?

『あつ森』に登場する生物の傾向として、日本に生息している種類をモデルにグラフィックが作られているケースが多いように見受けられます。
もちろん、ある程度具体的な種名が表記されているものの中にはニジイロクワガタ、ネオンテトラ、アレキサンドラトリバネアゲハなどの海外勢もいます。
しかし、「エイ(モデルはアカエイ)」「フグ(モデルはクサフグ)」「ハチ(モデルはアシナガバチ)」などのように、ふんわりした総称的な名があてられている生物は日本人にとってより身近な種がピックアップされているようです。
となると、黒いボディーに赤い頭。そして黄色い脚をしたあのムカデは……
はい!おそらく日本各地に分布し、人里での遭遇率も高い「トビズムカデ」に特徴が合致します。

トビズムカデは日本本土に分布するムカデの中では最大級の種で、大きなものでは体長15センチほどにもなります。
森林から農地、庭にいたるまで幅広い環境に棲んでおり、時には民家に侵入して人々をパニックに陥れます。
理由はもちろん、牙に毒があるから。うっかり咬まれると患部が腫れ、ズキズキと痛みます。
トビズムカデは他の多くのムカデと同様に夜行性で、明るい時間帯は岩や倒木の下に潜り込んで休息しています。
『あつ森』では岩を叩くと飛び出してきますが、あの演出はこうした生態を反映させたものなのでしょう。
そういえば、ひとつ気になることがあります。
ハチ、サソリ、タランチュラは揃いも揃って『あつ森』内において、現実以上の凶暴性をもってプレイヤーに危害を加えてきます。
しかし、彼らに勝るとも劣らないほどのメジャー毒虫であるムカデは、一切プレイヤーを攻撃してきません。
接近しようが接触しようが、ひたすら逃げ回るばかり。なぜでしょう?

……それはきっと、製作陣に「ムカデびいき」な方がいらっしゃったからにちがいない!
トビズムカデは敵が現れても、基本的に「立ち向かうより逃げる」という選択をする生物だということを熟知していたのでしょう。
サソリやタランチュラの仲間はけっこう積極的に威嚇はしてきますからね。その点、トビズムカデは本当に臆病なのです。
そんな穏やかな生物を、ゲーム中とはいえ凶暴な役柄に据えるのがしのびなかったのではないでしょうか。
ムカデびいきのスタッフさん!もし実在したら、ぜひ次回作では例の「リュウジンオオムカデ」を出してくださいよ~。
夜に釣りをしてると水辺から飛び出してくる!とかけっこうスリリングでいいギミックだと思うんですけどねえ。
『あつ森』博物誌バックナンバー
■著者紹介:平坂寛

Webメディアや書籍、TV等で生き物の魅力を語る生物ライター。生き物を“五感で楽しむ”ことを信条に、国内・国外問わず様々な生物を捕獲・調査している。現在は「公益財団法人 黒潮生物研究所」の客員研究員として深海魚の研究にも取り組んでいる。著書に「食ったらヤバいいきもの(主婦と生活社)」「外来魚のレシピ(地人書館)」など。
YouTubeチャンネル